締結

「外力がかかればボルトがそのまま受ける」は誤りだ|締結三角形で見る力の分担

ichimatsu
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はじめに:「引っ張ったらボルトがそのまま受ける」と思っていないか

ボルトで締めたフランジを軸方向に引っ張る。このとき、ボルトの軸力はその引張力の分だけ増える——そう思っていないか。

外力 100 kN なら軸力も 100 kN 増える。この直感は多くの設計者が持つ。しかし正しくない。

実際に増えるのは外力の「一部」だ。残りは被締結体(挟まれている部品)が圧縮をゆるめることで吸収し、ボルトには届かない。その割合を決めるのが内力係数 Φ(ファイ)だ。

「ボルト締結部を引っ張ると、ボルトと被締結体で力が分担される」——この仕組みを頭に入れておくだけで、締結トラブルへの対処が根本から変わる。


基礎の確認:締め付けとは何か

ボルトを締め付けると、ボルト軸に引張力(軸力 Fi)が発生する。同時に、挟まれた被締結体には圧縮力がかかる。この「ボルトが引っ張られ、被締結体が押し付けられている状態」が締結の正体だ。

ボルトと被締結体は、それぞれスプリングとして機能している。

要素状態剛性
ボルト軸方向に引き伸ばされているKb
被締結体軸方向に圧縮されているKf

一般的な金属締結では、被締結体のほうがボルトより剛性が高い(Kf > Kb)。この剛性の差が、力の分担に直結する。


【図解1】締結三角形で力の分担を見る

図1

締結三角形(ボルト線図)は、ボルトと被締結体の力と変位の関係を一つの図に重ねたものだ。

  • 左の斜線(ボルト):横軸をボルトの伸び量、縦軸を軸力として、傾き Kb でゼロから Fi まで上がる
  • 右の斜線(被締結体):横軸を圧縮量、縦軸を圧縮力として、傾き Kf でゼロから Fi まで上がる
  • 両者は頂点 Fi で交わる——これが締付け点だ

ここに引張外力 F が加わると何が起きるか。

ボルトと被締結体は剛体的に接続されているため、変位の変化量は共通だ。この変化量を Δδ とおくと:

ボルトへの追加力:  ΔFb = Kb × Δδ
被締結体の圧縮減少:ΔFf = Kf × Δδ
合計:             F = ΔFb + ΔFf

整理すると:

Φ = Kb ÷ (Kb + Kf)

ボルト追加荷重:  ΔFb = Φ × F
被締結体の圧縮減少:ΔFf = (1 − Φ) × F

Φ は内力係数と呼ばれる。一般的な金属締結では Φ = 0.1〜0.3 程度で、外力の 70〜90% を被締結体が吸収する。ボルトへの追加荷重はわずか 10〜30% にすぎない。


被締結体が分離するとボルトが全荷重を負う

外力が大きくなるにつれ、被締結体の圧縮力はゼロに近づく。ゼロになった瞬間、被締結体が分離し、力の分担の仕組みが崩れる。以降はボルト 1 本が外力をすべて受けることになる。

分離が起きる荷重(分離荷重)は次のとおりだ:

分離荷重 Fs = Fi ÷ (1 − Φ)

軸力 Fi が低いほど分離荷重が小さくなる。締付けトルクが不足していると、想定より小さい外力で分離が起きる。

振動で繰り返し外力がかかる環境では、分離と密着を繰り返すたびにボルトへ大きな応力変動が生じる。ボルトの疲労破壊の起点になりうる。


【図解2】3つの状態で見る分離リスク

図2

図のとおり、被締結体が分離した瞬間に状況が一変する。「本数を増やす」「軸力を上げる」どちらの対策が効くかも、分離荷重の式を見れば判断できる。


せん断外力の場合はまったく異なる

引張(軸方向)外力は締結三角形で説明できる。しかしせん断(面に平行)外力の場合、考え方がまったく変わる

適切に締め付けられた締結部では、せん断力は摩擦力が受け持つ。

摩擦力 Ff = μ × Fi × n

  μ:摩擦係数(鋼面同士: 0.1〜0.2 程度)
  Fi:ボルト 1 本の軸力
  n :摩擦面の数

軸力が高いほど摩擦力が大きくなり、せん断に強くなる。ボルト軸が直接せん断を受けるのは、摩擦が破れた後の最終状態だ

この観点でも、軸力を確保することがせん断対策の本質になる。ボルトを太くする前に、軸力が出ているかを確認するほうが先だ。

外力の種類受け持つ主体キーワード
引張(軸方向)ボルト(Φ分)+ 被締結体((1−Φ)分)内力係数・分離荷重
せん断(面方向)摩擦力(軸力に比例)μ × Fi × n

まとめ

  • 引張外力がかかってもボルト軸力は全部増えない——内力係数 Φ の分だけ増えるのが正しい
  • 典型的な金属締結の Φ は 0.1〜0.3。外力の大部分は被締結体が吸収する
  • 被締結体が分離した瞬間、ボルトが全荷重を負う。振動下では疲労破壊につながる
  • 分離荷重は Fi ÷ (1−Φ) で決まる。軸力の確保が根本対策
  • せん断外力は摩擦力が受ける。こちらも軸力の大きさが鍵になる

締結三角形を頭に入れておくことで、「何を改善すれば効くか」の見当がつくようになる。ボルトは締結系の一部であって、それ単体で外力を受け止めているわけではない。


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一松(いちまつ)
一松(いちまつ)
大学院(機械工学専攻)修了後、大手輸送機器メーカで設計一筋20年
大学院(機械工学専攻)修了後、大手輸送機器メーカーに入社。20年以上、二輪車・多目的車両向けエンジン設計に携わっています。現場の知見から「考えるための情報」を発信しています。
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