疲労設計

「S-N曲線を引いた」だけで終わっていないか、疲労寿命設計の実践的な使い方

ichimatsu

はじめに:疲労解析ではOKだったのに、なぜ壊れたか

機械部品の疲労設計では、材料のS-N曲線を使って部品が繰り返し荷重に耐えられるかを評価します。私自身、エンジン設計の中で疲労強度を評価する機会が数多くありました。

以前あるエンジン部品で、疲労を考慮して設計し事前に解析も行っていたにもかかわらず、実機で破損する経験をしました。「FEM解析で求めた応力振幅は、材料のS-N曲線の疲労限度以下だった」という判断は、間違ってはいませんでした。それでも壊れたのです。

原因を追っていくと、ポイントは平均応力にありました。しかもその平均応力の一部は、締結ボルトの軸力によって生まれていた応力だったのです。この記事では、S-N曲線の基礎から、この経験で見落としていたものまで解説します。CAE解析の境界条件や、ひずみゲージ実測と組み合わせると、より深く理解できます。


振動を消す部品が、内部では力を発生させている

この事例に登場するのは、エンジンの振動を打ち消すために使われるバランサーです。バランサーは、もともと存在する振動に対して逆方向の力を発生させ、エンジン全体の振動を小さくします。

外からエンジンを見れば、振動は小さくなっています。しかしバランサーの内部では、「振動を打ち消すための力」そのものが発生しているのです。エンジン全体の振動が小さくなることと、バランサー周辺の部品にかかる力が小さくなることは、同じではありません。

バランサーが発生させる力は一定ではなく、エンジンの回転にあわせて周期的に変化します。周辺部品には繰り返し荷重がかかります。だから設計段階で疲労強度を解析しました。「疲労を考えていなかったから壊れた」のではありません。疲労を考慮し、解析もした上で、それでも実機は破損しました。


S-N曲線とは何か:基礎の確認

S-N曲線(Stress-Number curve、Wöhler曲線とも呼ばれる)とは、材料の疲労特性を表すグラフです。

  • 横軸(N軸):破断までの繰り返し数(対数スケール)
  • 縦軸(S軸):応力振幅(または最大応力)

試験片を一定の応力振幅で繰り返し負荷し、破断した繰り返し数をプロットして作成します。

低サイクル疲労と高サイクル疲労

S-N曲線上には大きく2つの領域があります。

領域 繰り返し数の目安 特徴
低サイクル疲労 〜10³〜10⁴回 降伏応力に近い高応力。塑性変形を伴う
高サイクル疲労 10⁵〜10⁷回以上 弾性変形域での繰り返し。機械部品の主戦場

疲労限度とは

鉄鋼材料のS-N曲線は、10⁶〜10⁷回付近でほぼ水平になります。この水平な応力レベルを疲労限度(σ_w)と呼びます。これ以下の応力振幅では、理論上、無限回繰り返しても破壊しないとされます。

ただしアルミニウム合金などの非鉄金属には明確な疲労限度が存在しないことが多く、S-N曲線の傾きが緩やかになるだけの場合があります。アルミ部品の疲労評価では、規定繰り返し数(例:10⁷回)での応力値を「疲労強度」として使う必要があります。


【図解1】S-N曲線の読み方と修正係数

図1

教科書のS-N曲線(試験片データ)と実際の機械部品の疲労強度には乖離があります。次の修正係数を乗じて、実部品の疲労強度を推定します。

σ_w(実部品)= σ_w(試験片) × Cf × Cs × Cm × ...

  Cf: 表面状態係数(仕上げ面粗さによる低下)
  Cs: 寸法係数(大型部品ほど低下)
  Cm: 機械加工係数(残留応力の影響)
修正係数 内容 典型的な値の範囲
表面状態係数 Cf 研磨仕上 → 旋削仕上 → 鍛造肌など 0.5 〜 1.0
寸法係数 Cs 大径ほど低下(体積効果) 0.6 〜 1.0
応力集中係数 Kf ノッチ・段差・キー溝など 1.0 〜 3.0(逆数として乗じる)

実部品の疲労強度は、試験片の疲労限度の半分以下になることも珍しくありません。S-N曲線の値をそのまま使うのは危険なのです。


S-N曲線が教えてくれないこと:平均応力の影響

S-N曲線の標準試験は、平均応力ゼロ(完全両振り、応力比R = −1)の条件で行われます。しかし実際の機械部品には、ほぼ必ず平均応力が存在します。

  • ボルト締結部:締め付け軸力による引張の平均応力
  • 圧入部:圧入による圧縮の平均応力
  • 回転軸:自重によるたわみで発生する曲げ応力の平均成分
  • 溶接部:溶接残留応力による引張の平均応力

平均応力が引張方向にあるとき、同じ応力振幅でも疲労寿命は短くなります。逆に圧縮の平均応力があれば疲労寿命は延びます。ショットピーニングが有効な理由です。

先のバランサーの事例でも、この平均応力が壊れた原因でした。部品を固定していたボルトの締結軸力によって、エンジンが回転する前から部品には引張の平均応力が存在していました。そこにバランサーによる繰り返し応力が重なっていたのです。


【図解2】修正グッドマン線図:平均応力の影響を考慮する

平均応力の影響を定量的に評価するための図が、修正グッドマン線図です。

図2

修正グッドマン線の式:

σa / σw + σm / σB = 1

  σa: 応力振幅(変動成分の半値)[MPa]
  σm: 平均応力(変動の中心値)[MPa]
  σw: 両振り疲労限度(修正済み)[MPa]
  σB: 引張強さ [MPa]

設計への適用例

ボルト締結体の場合を考えます。

  • 締め付け軸力によって平均応力 σm = 400MPa(材料の降伏応力 σY = 400MPa と同等)
  • FEM解析で求めた応力振幅 σa = 100MPa

「両振り疲労限度(修正後)= 250MPa なので100MPa < 250MPa → OK」という判断は誤りです。グッドマン線図で評価すると次のようになります。

100/250 + 400/700 = 0.40 + 0.57 = 0.97

グッドマン値は0.97で、疲労線はかろうじて下回っています。しかしこれだけでは不十分です。降伏線の確認が不可欠です。

ピーク応力 = σm + σa = 400 + 100 = 500MPa > σY = 400MPa → 降伏線を超過

これは「締め付けただけでは静的に壊れないが繰り返し荷重が入力されるたびに降伏が発生する」領域です。降伏が繰り返されると塑性ひずみが蓄積し、ラチェッティングと呼ばれる現象を経て疲労破断に至ります。

「応力振幅が疲労限度以下だからOK」は誤りですが、「グッドマン値が1.0未満だから安全」もまた不十分な判断です。グッドマン線の内側にありながら降伏線の外側にある設計点は、振幅が入力されるたびに壊れる領域なのです。


荷重を変えられないなら、部品側の応力を下げる

バランサーの事例に戻ります。原因が締結軸力による平均応力だと分かれば、「ボルトの締付軸力を下げればいい」と考えたくなります。しかし締結には、締結として成立させるために必要な軸力があります。疲労強度だけを理由に軸力を自由に下げることはできませんでした。

そこで部品側の応力状態を変える方向で設計変更しました。スミRを大きくする。肉厚を増やす。応力集中を緩和する。こうして同じ荷重・同じ締結軸力のままでも、部品に発生する応力そのものを小さくしたのです。設計変更後、応力疲労線図で安全な領域に入ることを確認しました。

「計算結果がNGだったから肉厚を増やした」のではありません。何が平均応力を作っているのかを突き止めます。その原因を変えられるかどうかを判断します。変えられないなら、部品側で応力状態を改善する。これが疲労設計の実務なのです。


実測との組み合わせが最も確実

S-N曲線や修正グッドマン線図による解析的評価は重要ですが、それだけでは限界があるのです。FEM解析で得られる応力は、入力した荷重に対する応答にすぎません。実機で発生する応力には、解析に含まれていない荷重成分が存在することがあります。

疲労設計で確実性を上げるには、次の順番が効果的です。

  1. FEM解析で応力分布の傾向を把握し、危険部位を特定する
  2. 修正グッドマン線図で平均応力を含めた疲労評価を行う
  3. ひずみゲージ実測で解析に漏れている荷重成分がないかを検証する
  4. 台上試験・実機試験で最終確認する

特に新規構造・新規材料・過去に類似実績のない部品では、実測による検証を省略しないことを強く勧めます。


疲労破壊が起きたときの原因究明の考え方

疲労破壊は、応力集中源が存在する箇所に繰り返し荷重が作用することで発生します。この原則に立ち返ります。

① 破面の観察
疲労破面には特有のパターン(ビーチマーク、ラチェットマーク)が現れます。破面観察によって、き裂の起点・進展方向・最終破断域を特定できます。

② き裂起点の応力集中源の確認
き裂はほぼ必ず応力集中源から発生します。ノッチ・キー溝・圧入境界・溶接止端・機械加工傷などを確認します。

③ 荷重の再評価
このき裂起点に変動応力を発生させた荷重は何か。解析で評価していなかった荷重成分がないかを検討します。


まとめ:S-N曲線は出発点にすぎない

  • S-N曲線の疲労限度は「試験片・完全両振り・特定の表面状態」での値。実部品にそのまま使ってはいけない
  • 表面状態係数・寸法係数・応力集中係数で修正した実部品の疲労強度を使う
  • 平均応力が引張方向にあるとき、疲労寿命は大幅に低下する。修正グッドマン線図で評価する
  • 解析的評価だけでなく、ひずみゲージ実測による実荷重の検証が最も確実
  • 疲労破壊が起きたときは破面観察からき裂起点・荷重を逆算する

今回のバランサーの事例が教えてくれたのは、応力振幅だけを見ていては疲労を判断できないということです。平均応力はどこから来ているのか、締結や圧入による応力は含めて評価しているのか。ここまで見て、初めて疲労設計と呼べます。

計算結果が安全側であっても、現物で破壊が起きたなら、現物が正しいのです。原理原則に立ち返り、何が見落とされていたかを考え抜く姿勢が、次の設計をより確かなものにします。

さらに学びたい方へ

S-N曲線を出発点に、平均応力補正・切欠き効果・実部品寸法効果まで疲労設計の判断軸を体系的に押さえたい方には、以下の便覧が1冊目として最適です。設計現場で「この係数どう取る?」となったときのリファレンスとしても使えます。



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一松(いちまつ)
一松(いちまつ)
大学院(機械工学専攻)修了後、機械設計エンジニアとして設計一筋20年
大学院(機械工学専攻)修了後、製造業で機械設計に従事。20年以上、動力機器の設計開発に携わっています。現場の知見から「考えるための情報」を発信しています。
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