「H7/p6で圧入してください」で思考停止していないか|圧入設計の実践と見落としやすい落とし穴
はじめに:「H7/p6で圧入」という記述の後ろにある暗黙の前提
機械設計の図面を見ると、「H7/p6 圧入」という公差指示をよく目にします。この指示を見た設計者は——加工者に送り出した後、どこまで考えているでしょうか。
圧入力はどのくらいか。圧入後に十分な保持力(抜け力)があるか。温度変化があったときに緩まないか。圧入時に割れるリスクはないか。
これらを定量的に評価せずに「H7/p6 圧入」と書いている設計者は、意外と多いのが現実です。
筆者もかつてはその一人でした。ある部品の圧入部が使用中に抜け、原因を調べた結果、「図面の公差指示は正しかったが、表面粗さと圧入時の潤滑条件を考慮していなかった」 ことが判明した経験があります。
この記事では、圧入・はめあい設計の基礎から、現場で起きやすいトラブルの根本原因まで解説します。
はめあいの基礎:3種類の関係
はめあいとは、穴と軸の寸法の組み合わせ方です。JIS B 0401に基づき、3種類に分類されます。
| はめあいの種類 | 関係 | 代表例 | 用途 |
|---|---|---|---|
| すきまばめ | 穴 > 軸(常にすきまあり) | H7/f6、H7/g6 | 回転・摺動部 |
| 中間ばめ | 穴 ≒ 軸(すきまか締め代か確定的でない) | H7/js6、H7/k6 | 位置決め・キー併用 |
| しまりばめ | 穴 < 軸(常に締め代あり) | H7/p6、H7/s6 | 圧入・固定 |
「H7/p6」は穴基準のしまりばめです。穴の公差がH7(基準寸法を下限として上方向に広がる公差)、軸の公差がp6(基準寸法より大きい方向に外れた公差)の組み合わせです。
締め代の計算
たとえば、呼び径φ50mmの場合:
- H7: +0.025 / 0(上の許容差 +25μm、下の許容差 0μm)
- p6: +0.042 / +0.026(上の許容差 +42μm、下の許容差 +26μm)
最小締め代 = p6下限 − H7上限 = 26 − 25 = 1μm
最大締め代 = p6上限 − H7下限 = 42 − 0 = 42μm
この「最小1μm〜最大42μm」という幅が、設計が意図した締め代の範囲です。
【図解1】はめあいの公差域:穴基準の比較

軸の公差域記号ごとに、ゼロライン(基準寸法)に対してどちらの方向にずれているかを示しています。
- f, g: ゼロラインより大幅に低い → すきまばめ
- h: ゼロラインぴったり(下限が0)→ すきまばめ(最小すきま = 0)
- k, m: ゼロラインをまたぐ → 中間ばめ
- n, p: ゼロラインより高い → しまりばめ(圧入)
- s, u: さらに高い → 強圧入
圧入力・抜け力の計算(ラーメの式)
圧入部の設計で最も重要な計算は、圧入力と抜け力(保持力)の推定です。
接触面圧 p の計算
2つの円筒が締め代 δ で圧入されているとき、接触面圧 p はラーメの式(Lamé’s equation)で求められます。
圧入力 F と抜け力 F_pull
F = π × d × L × p × μ
L: 圧入長さ [mm]
μ: 摩擦係数
摩擦係数 μ は条件によって大きく変わります:
| 条件 | 摩擦係数 μ の目安 |
|---|---|
| 鋼同士・油潤滑あり | 0.08 〜 0.12 |
| 鋼同士・油潤滑なし | 0.12 〜 0.20 |
| アルミ×鋼・油潤滑あり | 0.04 〜 0.08 |
| アルミ×鋼・油潤滑なし | 0.10 〜 0.15 |
【図解2】圧入部の応力分布(ラーメ式)

圧入によって発生する応力は、接触面を中心に半径方向・周方向に分布します。
- 外側部品(穴側):周方向応力(フープ応力)が引張 → 割れに注意
- 内側部品(軸側):周方向応力が圧縮 → 比較的安全
薄肉のリングや軽合金製のハウジングでは、圧入による割れリスクが高くなります。 最大締め代での引張応力が材料の降伏応力を超えないかを、必ず確認してください。
設計の落とし穴:4つの見落としやすい要因
落とし穴1:表面粗さの影響
圧入時、軸と穴の山(微細な凹凸)は塑性変形でつぶれます。この分だけ実効締め代が小さくなります。
目安として、圧入後の実効締め代は:
δ_実効 ≈ δ_設計 − 3.2 × (Ra_軸 + Ra_穴)
Ra: 算術平均粗さ [μm]
Ra 1.6μm 仕上げの部品同士(代表値)なら、約10μmの締め代が「消える」計算になります。
落とし穴2:圧入時の潤滑
油潤滑で圧入した場合と、無潤滑で圧入した場合では、静止後の摩擦係数が大きく異なります。
一般に、油潤滑で圧入した面の摩擦係数は無潤滑より低くなります。高い保持力が必要な場合は、「無潤滑圧入」または「嫌気性接着剤の併用」を検討します。
落とし穴3:温度変化による締め代の変動
アルミ(線膨張係数 約23×10⁻⁶/℃)と鋼(線膨張係数 約12×10⁻⁶/℃)の組み合わせでは、温度上昇によって締め代が大きく変化します。
たとえば φ50mm の嵌め合いで 100℃の温度上昇があると:
Δδ ≈ d × ΔT × (α_外側 − α_内側)
= 50 × 100 × (23−12) × 10⁻⁶
≈ 0.055 mm = 55μm
アルミ製ハウジングに鋼軸を圧入している場合、温度が上がると締め代が増し、設計値以上の応力が発生する可能性があります。
落とし穴4:繰り返し脱着による保持力の低下
圧入部を一度抜いて再圧入すると、接触面の微細な凹凸がつぶれており、保持力は初回より低下します。
メンテナンスで分解・再組立が必要な部品に対して圧入を採用する場合は、キー・スプライン・接着剤の併用を検討します。
実務でのチェックリスト
- [ ] 最小締め代での抜け力(保持力)が必要値を上回るか確認したか?
- [ ] 最大締め代での接触面圧・フープ応力が材料強度を下回るか確認したか?
- [ ] 表面粗さによる実効締め代の低下を考慮したか?
- [ ] 圧入時の潤滑条件と摩擦係数の想定は適切か?
- [ ] 温度変化がある用途では、温度補正後の締め代を確認したか?
- [ ] 分解・再組立の有無を考慮した設計になっているか?
まとめ:「H7/p6」の先にある設計責任
- はめあいの公差指示はスタートであり、それだけでは設計は完結しない
- 圧入力・抜け力・割れリスクをラーメの式で定量評価することが重要
- 表面粗さ・潤滑・温度変化・繰り返し脱着が、計算値と現実の乖離を生む
- アルミ×鋼の組み合わせでは温度変化による締め代変動を必ず評価する
「H7/p6で圧入」という指示の後ろには、設計者が定量的に確認すべきことが多数あります。公差記号を書いただけで「設計した」と思わず、数字で設計の妥当性を確認する習慣を持つことが、信頼性の高い機械をつくることにつながります。

