軸受

軸受 傷の形状と位置から故障原因を逆算する読み方

ichimatsu

はじめに:損傷した軸受は捨てる前にじっくり観察する

設備保全の現場では交換後の損傷軸受がそのままゴミ箱に入る場面を何度も見てきました。「もう使えないから」という判断は正しいものです。しかし、そこで廃棄してしまうとなぜ損傷したかを知る機会を永遠に失います

以前、エンジン補機の玉軸受が設計寿命の半分にも満たない時間で損傷した事例に関わりました。担当者は「荷重が大きかったのでは」と判断し、同型の軸受に交換しようとしていました。損傷した外輪軌道面を観察すると、フレーキング(剥離)が軌道面の一箇所に集中していました。

これは過大荷重による均一な疲労破壊ではありません。特定の位置に繰り返し局所荷重が集中していたサインです。ハウジング加工を確認すると、取付部の真円度が基準値を外れていました。外輪が楕円に変形し、特定位置に荷重が集中していたのです。「同型軸受に交換」ではなく「ハウジングを修正してから交換」が正解でした。

損傷の『形状』と『位置』は、設計の盲点を正直に教えてくれます。 この記事では、損傷した軸受の傷を読むための基本的な考え方を解説します。


損傷を読む前に:軸受の各部位の確認

損傷の『位置』を記録・分析するために、まず軸受の部位名称を整理しておきます。

部位 役割 損傷が示す主なトラブル
外輪軌道面 転動体が転がる溝(外側) 過大荷重・ミスアライメント
内輪軌道面 転動体が転がる溝(内側) 荷重変動・急加減速
転動体(玉・ころ) 荷重を転がりで伝える 異物混入・衝撃荷重・油膜切れ
外輪外径 ハウジングに圧入されるはめあい面 ハウジング側の締め代不足
内輪内径 軸に圧入されるはめあい面 軸側の締め代不足・クリープ
保持器 転動体の間隔を保つ 潤滑不足・過大回転

損傷を記録するときは「どの部位が」「どの位置(一箇所か全周か)」「どんな外観か」の3点を必ずメモしておきます。


損傷モード5種類:外観の特徴と根本原因

1. ピッチング(フレーキング):最も一般的な疲労損傷

軌道面や転動面がうろこ状に剥離する損傷で、転がり軸受の損傷として最も多く見られます。表面疲労き裂が進展し、最終的に表面層が剥落します。

観察のポイントは剥離の分布です。

  • 一箇所に集中している → ミスアライメント、ハウジング変形、異物圧痕を起点とした疲労
  • 全周に均一に分布している → 過大荷重、潤滑不足、設計寿命の超過

同じフレーキングでも原因はまったく異なります。分布パターンを記録することが原因絞り込みの第一歩です。

2. スミアリング:油膜切れによる表面の引きちぎれ

軌道面や転動面が引きちぎられたような粗面になる損傷です。金属光沢が失われ、白濁したような外観になることが多くあります。

急加減速時に転動体と軌道輪の間でスリップが生じ、油膜が形成される前に金属接触が起きることで発生します。始動停止の繰り返しが多い用途、低速・高荷重域で特に発生しやすくなります。

L10寿命計算では「油膜が十分に形成されている」ことを前提としていますが、過渡状態での油膜評価は見落とされやすいところです。

3. フレッティング:圧入不足が生む赤錆状の摩耗

外輪外径(ハウジング側)や内輪内径(軸側)のはめあい面に赤錆色の微粉(酸化鉄粉)が生じる損傷です。表面に小さなピットが連続して生じた外観になります。

圧入不足で軸受座との締め代が足りないと、振動環境下で微小な相対滑りが繰り返し発生します。摩耗粉が酸化し、赤錆状の粉として現れます。

見落とされやすいのは「軌道面は正常なのに、はめあい面だけに損傷がある」ケースです。この場合は軌道面の損傷を探しても見つからないため、原因不明で終わりやすくなります。分解時に軸受座の外観も必ず確認する習慣が必要です。

4. 圧痕(ブリネリング):外力が残した凹み跡

軌道面に転動体ピッチ間隔で規則的な凹みが生じる損傷です。静止時の衝撃荷重や過大静荷重が原因の「真性ブリネリング」と、微小振動による「偽性ブリネリング(フレッティング)」に分けられます。

輸送中・組立時の取扱いミスでも発生します。軸受を扱う際に木槌で軸方向から直接叩く、軸受をパーツとして保管中に強い振動にさらすといった操作が原因になりやすいものです。

異物混入によって不規則な圧痕が生じることもあります。規則的か不規則かを確認することで原因が絞れます。

5. 焼き付き:潤滑不足による熱損傷

軸受が変色(青〜茶色)し、転動体と軌道面が溶着する損傷です。軸受全体の異常な温度上昇を伴うことが多く、保持器の変形・破損が併発することもあります。

潤滑剤の不足・劣化・選定ミスが主因ですが、過大荷重との複合要因になることも多くあります。焼き付きが起きた場合は、潤滑系統全体の見直しが必要になります。


【図解1】損傷モードの識別表

図1

5つの損傷モードの外観特徴と主な原因をまとめました。損傷した軸受を観察するときは、この表と照らし合わせて「何に近いか」を確認します。そこから原因の候補を絞り込めます。


損傷「位置」から原因を絞る

損傷モードの識別と並んで効いてくるのが、損傷がどの部位のどの位置に出ているかの記録です。

同じ読み方は歯車でも成り立ちます。歯面はすべり率が場所ごとに違うので、損傷の出た場所から原因を絞れます(歯車の損傷の見分け方、傷の出た場所から原因を絞る手順)。

外輪軌道面の損傷位置が語ること

外輪軌道面のフレーキングが「ある角度帯域に集中」している場合、外輪に局所的な荷重がかかっていたことを示します。考えられる原因は次の3つです。

  • ハウジングの変形・真円度不良 → 外輪が楕円に変形し、特定位置に荷重集中
  • 締結ボルトの不均一な締め付け → フランジ型ハウジングで多発
  • ミスアライメント → 軸が傾いて一方向に荷重が偏る

一方、軌道面全周に均一なフレーキングが出ている場合は荷重の絶対量が大きすぎるか、潤滑条件が設計前提から外れています。

はめあい面のフレッティングが語ること

外輪外径(ハウジング側)にフレッティングが見られる場合、外輪がハウジング内で微小回転(クリープ)していたことを意味します。回転している方向が外輪の場合、外輪の締め代を見直す必要があります。

内輪内径(軸側)のフレッティングは、軸が回転しているにもかかわらず内輪が追従できていない「内輪クリープ」の証拠です。軸の公差(m6、k5 など)と締め代の見直しが必要になります。


【図解2】損傷位置と原因の対応マップ

図2

軸受の各部位(A〜D)と、そこに現れる損傷モード・考えられる原因を対応させました。分解時にどこを見るべきかの指針として活用してください。


現場での観察・記録の手順

損傷軸受を分解したとき、次の順番で観察すると原因を逃しにくくなります。

1. 分解前に確認する

  • ☐ 軸受周辺の異常な汚れ・変色・グリス漏れの有無
  • ☐ ハウジングや軸受座の外観(フレッティング粉の有無)
  • ☐ 異音・異常振動の発生状況(記録が残っていれば確認)

2. 分解時に確認する

  • ☐ グリスの色・性状・金属粉の混入(黒化、金属光沢粉、赤錆粉)
  • ☐ 保持器の変形・破損の有無

3. 軸受単体で確認する

  • ☐ 外輪・内輪の各軌道面の外観(損傷モードと分布)
  • ☐ 外輪外径・内輪内径のはめあい面の外観
  • ☐ 転動体の外観(スミアリング、圧痕の有無)

4. 記録する

  • ☐ スマートフォンで写真撮影(マクロ撮影を推奨)
  • ☐ 損傷位置を模式図にマーキング
  • ☐ 損傷の大きさ・範囲・特徴をメモ

観察の手順を記録に残すかどうかで、あとから引き継げる範囲が変わります。記録されなかった判断がAIに引き継がれず、人を呼び戻すことになった実例は、AIを入れたら、AIに教える人が要りましたに書きました。


まとめ:損傷軸受は「設計の答え合わせ」の機会

  • ピッチング(フレーキング) は「一箇所集中か全周分布か」で原因が異なる
  • スミアリング は油膜形成前のスリップが原因。過渡状態の潤滑評価を見直す
  • フレッティング ははめあい面に出る。軌道面だけ見ていると見落とす
  • 損傷位置の分布パターン が、ミスアライメント・変形・過大荷重を区別する手がかりになる
  • 根本原因を取り除かずに同型軸受へ交換しても、同じ損傷が再発する

損傷した軸受は、設計・製造・組立・運用のどこかに問題があったことを示しています。廃棄前の5分の観察が、次の設計改善に直結します。


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一松(いちまつ)
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大学院(機械工学専攻)修了後、機械設計エンジニアとして設計一筋20年
大学院(機械工学専攻)修了後、製造業で機械設計に従事。20年以上、動力機器の設計開発に携わっています。現場の知見から「考えるための情報」を発信しています。
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