締結

ねじ込み長さの決め方、長くしても端の一山の荷重は減りません

ichimatsu

ボルトの締結で主に設計するのは、ボルト側です。強度区分を選び、軸力を決め、締付けトルクを出す。ところがめねじ側の検討は、「何山かかっていればいい」で終わってしまいがちです。

締結の破損モードにはめねじの破損があります。ボルト側は無傷でめねじの側が削られるモードです。

アルミの鋳物ハウジングで、タップ穴を壊したことがあります。何度も締めては外していたら、最後はねじ山がガタガタになりました。使っていたのは座面が小さいボルトです。座面が小さいと、座面の摩擦に食われる分が減ります。同じ締付けトルクでも軸力は高く出ます。軸力をかけすぎていたのだと思います。

ねじ込み長さは長くすれば安心というものではありません。ねじ込み長さで稼げるのはせん断面積だけで、ねじ山の荷重の集中は長さを増やしても変わらないのです。

この記事では、ねじ込み長さで何が決まって何が決まらないかを書きます。ねじ込み長さが足りないときに何を見直すかも扱います。


規格にある数字は公差を選ぶための区分

ねじ込み長さについては、JIS B 0209-1 にはめあい長さ区分という規定があります。一般用メートルねじの公差を定めた規格で、S(短い)・N(並)・L(長い)の三つに分かれています。

区分の境界は、呼び径とピッチで決まります。呼び径5.6〜11.2 mm でピッチ1 mm なら、3 mm以下がS、3〜9 mmがN、9 mmを超えるとLです。

M6 に当てはめると、Nは 3〜9 mm になります。呼び径の0.5倍から1.5倍です。強度の目安としてよく見る数字とちょうど重なるので、規格が推奨している範囲なのだと読めてしまいます。

しかし、このJISが区分を選ぶ目安にしているのは強度ではありません。公差域クラス(6H・6g など)を選ぶためにこの区分を使います。はめあい長さが長いほど、ねじの全長で寸法をそろえる加工・検査の難易度が上がります。だから同じ「中」のはめあい区分でも、S・N・Lで推奨クラスが変わってきます。

ボルトメーカーは、相手のめねじの深さを知りません。実際のはめあい長さが分からない場合に、一般的な値としてNを使っているだけです。

強度設計されたねじ込み長さと似ているのはたまたまなのです。つまり、強度的に十分なねじ込み長さなのかどうかはこの規格では判断することができません。

軟らかい母材を扱う会社なら、材料ごとの社内基準を持っているところが多いと思います。その基準を読むときに見るのは、図面に書いた呼びの深さではありません。公差の下限で実際に何 mm かみ合うかを見ます。貫通めねじかどうか、めねじの面取り、ボルト側の先端面取りなどを引くと、実際にかみ合う長さは図面の指示値より短くなります。


下限はめねじが先に壊れない長さ

ねじ込み長さの下限を決めている条件は一つです。

おねじが引張で破断するより先に、めねじのねじ山がせん断破壊しないこと。

ボルト側の強度計算は比較的簡単です。教科書通りに設定していけばよいですし、軸力も強度区分の保証荷重で押さえられます。最悪、ボルトが破損しても交換すればよいです。ところがめねじの破損形態はボルト締結時のトルクの上がり方か、ボルトを緩めた後の様相からしかわかりません。めねじがナットではなく直タップだった場合は、ハウジング自体を交換する必要が出てきます。だからめねじ側の破損が起きないように慎重に設計することが必要です。

この条件を満たす最小の長さを、山本晃『ねじ締結の理論と計算』(養賢堂)は限界はめあい長さと呼んでいます。同書によると、ボルトとナットが同じ引張強さの鋼であれば 0.6d 程度です。呼び径が変わっても同じ値になります。

ここで効いているのは材質そのものではありません。ボルト材の引張強さと、めねじ材の引張強さの比です。

ボルト材とめねじ材の引張強さ比 限界はめあい長さ
1.0(同じ強さの鋼) 0.5d〜0.6d
1.5 0.8d〜0.9d
2.0 1.0d〜1.2d
鋳鉄めねじ(3.0〜7.0) 0.7d〜1.7d
アルミ合金めねじ(1.0〜3.0) 0.7d〜2.0d

同じアルミでも倍率は変わります。A5052 のめねじに強度区分4.8のボルトを入れる場合と、A6061-T6 のめねじに10.9のボルトを入れる場合では、比がまるで違うからです。「アルミだから2倍」と覚えている数字は、比が最大になるときの値です。

実務の出発点としては、鋼で呼び径の1〜1.5倍、鋳鉄とアルミ合金で1.5〜2倍、マグネシウム合金と樹脂で2〜3倍あたりを見ます。相手材とボルトの強度区分が決まった時点で、比から引き直します。


長さで増えるのはせん断面積

ねじ山のせん断はねじ山の付け根で起こります。

高圧ガス保安協会の「ねじ構造の強度設計指針」解説[A]によると、静荷重で壊れる断面はおねじ基部かめねじ基部です。ねじ底の応力集中は、静荷重の破壊にはあまり影響しません。

断面の中でせん断応力は一様ではなく、最大値は平均せん断応力の1.5倍くらいに達します。それでも静荷重のせん断破壊は平均せん断応力でほぼ決まるので、指針の計算も平均応力で組んであります。

めねじ基部のせん断面積を決めているのは、めねじの内径とかみ合うねじ山の数です。ねじ込み長さを倍にすれば、かみ合うねじ山の数も倍になり、せん断面積も倍になります。

静的に引きちぎる荷重に対しては、ねじ込み長さがそのまま効きます。限界はめあい長さの表がねじ込み長さで表現されているのはそのためです。


長くしてもめねじ穴口元の一山の荷重は減らない

ねじ山が均等に荷重を分担していれば、長さを倍にすると一山あたりの荷重は半分になるはずです。ところが実際には均等になりません。

指針によると、荷重の大部分はかみ合い口元の数個のねじ山が負担します。なかでも端の第一山にかかる荷重が大きく、残りのねじ山はほとんど遊んでいます。

集中の度合いは、ねじ山荷重集中係数 H で表します。かみ合い全長での平均に対する、最大のねじ山荷重の比です。

最大のねじ山荷重 Fmax = H × Fm     Fm = W / L

W は継手にかかる総軸方向荷重、L はかみ合い長さです。指針に載っている Sopwith の計算例を引きます。

かみ合い長さ比 L/D ねじ山荷重集中係数 H
1/2 1.79
1 3.34
2 6.67

L/D を 1 から 2 にすると、H は 3.34 から 6.67 へほぼ倍になります。平均 Fm のほうは L に反比例して半分になります。掛け合わせた Fmax は、ほとんど変わりません。

図1:かみ合い長さを倍にしても、端の一山が受ける荷重は変わらない

指針の記述をそのまま引きます。

かみ合い長さ比 L / D が大きくなるに従って H の値は非常に増大し、かみ合い長さを増しても端部のねじ山の負担はほとんど軽減しない

この計算例が対象にしているのは高圧設備のねじ込み式構造です。表の H をメートルねじの締結にそのまま適用できるものではありません。しかし、長さを増やしても端の一山の負担は軽くならない、という傾向として読んでください。

同じ表には、他のパラメータの効き方も載っています。ピッチが大きいほど H は小さくなります。ねじ山の頂角が大きいほど、ねじ面の摩擦係数が小さいほど、やはり小さくなります。締付け時にねじ面へ潤滑剤を塗ると軸力のばらつきが減りますが、そのとき端の一山の負担も同時に軽くなります。


繰り返し荷重の場合、長さはさらに効かない

静荷重ならねじ山の付け根のせん断で壊れるので、長さでせん断面積を稼ぐ手が使えます。繰り返し荷重では壊れる場所そのものが変わります。

指針には疲労設計の注意もあります。荷重の繰返しを考えるなら、見るのはかみ合い端部のねじの谷底の応力集中です。壊れるのはめねじの穴の口元です。

口元の山への荷重が長さで変わらないのなら、ねじ底の応力も変わりません。ねじ込み長さを1.5倍にしても、疲労の余裕は1.5倍にはなりません。

排気管の取付部で、ボルトのねじがなめてもげたことがあります。その座面はもともと鉄のパイプを留める前提で設計されたものでした。次のモデルで、同じ取付部に鋳鉄の排気マニホールドを付けました。重量物が振動で揺すられる条件に変わり、持たずにもげました。

座面もねじ込み長さも前のモデルのままです。変わったのは相手部品の質量と、そこから入る繰り返し荷重だけでした。

ベンチ試験で、特定の箇所のめねじだけがなめることもあります。原因はたぶん振動です。静的な計算では十分に持っている箇所なので、長さを足しても止まりません。

繰り返し荷重に対して余裕を作るなら、打つ手が変わります。ボルトを細く長くしてばね定数を下げる。座面を広げて面圧を確保する。締付け軸力を上げて、外力による軸力変動そのものを減らす。軸力と緩みの関係は非回転緩みの3メカニズムで扱っています。


ヘリサートで増えるのは、せん断が起こる円筒面の直径

長さの次に効くのは、せん断が起こる円筒面の直径です。同じ長さでも直径が大きければ、せん断面積は増えます。

母材のめねじを大きい径で切って、内側にボルトのねじを作り直す部品がヘリサートです。断面が菱形のステンレス線材をコイル状に巻いてあります。ヘリサートは商品名で、同じものをスプリューとも呼びます。

現場で「インサートナット」と言うと鋳込みで母材に埋めるものを指します。こちらは基本的に樹脂材へ入れるもので、アルミの母材に鉄のインサートナットを入れることは、よほど特殊な条件でない限りありません。ちなみに、あとから圧入や熱圧入で埋め込むものをアウトサートナットと呼びます。

日本スプリューの技術資料によると、コイルの外径は母材ねじの外径よりねじ山の高さの2倍ほど大きくなります。母材めねじのせん断面積が増えるので、引張荷重はヘリサートなしと比べて1.2〜1.3倍になります。

同じ資料には荷重の分担についての記述もあります。通常のめねじの分担は不均等で、第一ねじ山に33%、第二ねじ山に22%、第三ねじ山に15%です。コイルを入れると、この分布が均一に近づきます。

(1.2〜1.3倍も分担率もメーカーの技術資料の値で、試験条件は書かれていません。母材と相手ボルトの組合せまで含めた保証値としては扱えません)

図2:ヘリサートで増えるのは、せん断が起こる円筒面の直径

呼び長さは呼び径の1倍・1.5倍・2倍が標準で、1D・1.5D・2Dと表記します。M10 なら 1D が 10 mm です。母材の厚さより短いものを選びます。


量産ではヘリサートが要らない設計にする

ヘリサートは、数字の上ではめねじ強度アップに対して有効な手です。それでも私は量産の図面でヘリサートを前提にしません。

扱いが難しいからです。専用の下穴径と専用タップが要ります。挿入に工数がかかり、タングを折り取って回収する作業も付いてきます。壊れたねじ穴の補修で一本を正確に入れるのにも腕が要ります。

組立側では管理項目が増えます。挿入忘れ、挿入の深さ不足、折ったタングの残留。量産で効いてくるのは平均ではなくばらつきです。工程が一つ増えれば、ばらつきの要因も一つ増えます。コストも上がります。

  1. ねじ込み長さで届くなら、実際にかみ合う長さの下限で取る
  2. 届かないなら、ボルトを一段太くする。座面を広げる。本数を増やす
  3. それでも足りないなら、相手部品の質量や取付方法を見直す

めねじの設計はこのように進めます。

ヘリサートを使う場面は限られます。台上試験で出た特殊な事象への対応や、壊れたねじ穴の補修です。設計の解として最初から頭に入れておくものではないと思っています。量産に向けた設計なら、ヘリサートが要らない寸法にしておくほうが、コストでもばらつきでも有利です。


図面では JIS B 0002-2 で指示する

図示方法は JIS B 0002-2 が定めています。ねじインサートの製図についての規格です。ねじの呼びのあとに INS を付けて、M30×1.5 INS のように書きます。規格の用語は「ねじインサート」です。

「ヘリサート」は商品名なので、図面の指示としては規格の用語になりません。加工側の見落としを防ぐために、M10×1.5 1D ヘリサート挿入のこと のような注記を併記することが多いです。

下穴径はメーカーの推奨表から取ります。下穴深さは、コイルの呼び長さに座ぐりとタングの逃げを足して決めます。


まとめ

  • ねじ込み長さの下限は、おねじが破断するより先にめねじのねじ山がせん断破壊しない長さ
  • JIS B 0209-1 のはめあい長さ区分 S・N・L は公差域クラスを選ぶための区分。強度の目安ではない
  • 社内基準を読むときは呼びの深さでなく、公差の下限で実際にかみ合う長さで見る
  • 限界はめあい長さを決めているのは材質でなく、ボルト材とめねじ材の引張強さ比
  • 長さを増やすとめねじ基部のせん断面積が増える。静荷重にはそのまま効く
  • ねじ山の荷重は端の一山に集中する。長さを倍にすると集中係数もほぼ倍で、最大値は変わらない
  • 繰り返し荷重ではかみ合い端のねじ底で壊れる。長さを足しても疲労の余裕は増えない
  • 相手部品が重くなれば、座面もねじ込み長さも同じままでは持たない
  • ヘリサートはせん断が起こる円筒面の直径を上げる部品。鋳込みのインサートナットとは別物
  • 量産ではヘリサートを前提にせず、ボルト径・座面・荷重の側で寸法を決める

参考

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一松(いちまつ)
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大学院(機械工学専攻)修了後、機械設計エンジニアとして設計一筋20年
大学院(機械工学専攻)修了後、製造業で機械設計に従事。20年以上、動力機器の設計開発に携わっています。現場の知見から「考えるための情報」を発信しています。
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