溶接

材料の溶接性と設計指示|SUS304の落とし穴と非破壊検査の指定

ichimatsu

設計図面の材質欄に「SS400」「SUS304」「A5052」と書く。溶接記号も付ける。それで指示は完結したつもりでも、現場では割れる、腐る、巣が出る。

設計者の責任は、材料名と溶接記号で終わりではない。溶接性と検査方法を「設計指示として」明文化することまで含む。本稿はその境界を整理する。

実務応用編までで強度と歪みの実務は押さえた。ここから先は、材料側の特性と品質保証側の選定が主役になる。

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設計図面で「材質指示」だけでは事故が起きる

「SUS304で溶接構造」と書いて発注。立ち上がりは問題なし。半年後、海水近接の屋外用途で粒界腐食。Lグレードに切り替えるだけで解消したが、原因究明と再製作で工数を失った。

ありがちなパターンだ。材料記号だけで指示を済ませると、溶接熱影響部(HAZ)で起きる材料変化が抜け落ちる。設計図面に必要なのは、母材記号+溶接性に対する追加指示の二段構えである。

材料3種の溶接性と落とし穴
図1:材料3種の溶接性と設計者が押さえる落とし穴

炭素鋼:炭素当量 Ceq で予熱要否が決まる

炭素鋼は溶接しやすい。ただしハイテン材(高張力鋼)に近づくほど、HAZ がマルテンサイトに変態しやすい。これが低温割れの正体。

評価指標は 炭素当量 Ceq。炭素以外の合金元素を C 量に換算して足し合わせる。

Ceq (%) = C + Mn/6 + Si/24 + Ni/40 + Cr/5 + Mo/4 + V/14

目安は Ceq 0.44% 超で予熱が必要。SS400 や SM490A 程度なら通常は無対策で溶接可能だが、HT780 級になると 100〜150℃ の予熱、HT980 級では 150〜200℃ が一般的だ。

設計者がやるべきこと

  • 材料仕様書のミルシート例で Ceq を確認する
  • 必要なら図面に「予熱温度○○℃以上、層間温度○○℃以下」と明記
  • 高張力鋼の場合、溶接後熱処理(PWHT)の要否も判断する

ステンレス鋼:鋭敏化を Lグレードで殺す

SUS304 や SUS316 は溶接できる。だが「溶接できる」と「溶接後も耐食性が維持される」は別の話。

HAZ で鋼中の C が結晶粒界の Cr と結合(Cr 炭化物の析出)。粒界周辺の Cr が枯渇し、ここから粒界腐食が始まる。これが鋭敏化。発生温度域は概ね 500〜800℃で、まさに溶接 HAZ が通る温度帯と一致する。

対策は二択。

対策 材料 特徴
L グレード採用 SUS304L / SUS316L C 含有量 0.030% 以下に抑制。最も一般的
安定化ステンレス採用 SUS321(Ti添加)/ SUS347(Nb添加) C が Ti/Nb と優先結合し Cr を守る。高温用途で有利

設計図面では「SUS304」と書かない。腐食環境に置く溶接構造は SUS304L で指定する。コスト差は小さく、後工程の不良ロス回避効果が大きい。

アルミニウム合金:酸化皮膜と水素ガス

アルミは難材料だ。理由は三つある。

  • 酸化皮膜の融点が母材より高い:Al₂O₃ は約 2000℃、母材は約 660℃。皮膜が溶けず、母材の溶け込みを阻害する
  • 熱伝導率が高い:鉄の約 3 倍。熱が逃げるため大入熱が必要で、その分歪みが大きい
  • 水素を吸い込みやすい:溶融プールに水素が溶け込み、凝固時にガスとして残留 → ブローホール

設計指示として書くべきこと。

  • 溶接法の指定:交流 TIG または専用 MIG(皮膜除去作用がある方式)
  • 前処理仕様:脱脂、ワイヤブラシによる酸化皮膜の機械除去(数時間以内に溶接実施)
  • 受け入れ品質:X 線写真でブローホール許容数を規定

「アルミだから TIG でやって」では指示が浅い。前処理タイミングと検査基準まで設計側が決める

非破壊検査(NDT):4種の検出範囲が違う

非破壊検査4種の検出範囲
図2:PT/MT/UT/RT の検出範囲と材質制限

溶接欠陥は内部に潜む。表面から見えない割れ、融合不良、ブローホール。これらを完成品で見つけるのが非破壊検査(NDT)。

4種の使い分けを誤ると、「検査したのに見つからなかった」事故になる。

検査 略号 検出範囲 代表用途
浸透探傷 PT 表面に開いた割れのみ SUS・アルミの表面割れ。鉄鋼以外で使える
磁粉探傷 MT 表面〜表面直下(数 mm まで) 鉄鋼の表面疲労割れ。SUS・アルミでは使えない
超音波探傷 UT 板厚内部全域 厚板の内部割れ、融合不良。深さと位置が分かる
放射線透過 RT 板厚内部全域 ブローホール、画像で記録が残せる。立体把握は不利

選定の考え方。

  • 疲労が懸念される溶接止端部の割れ → MT(鉄鋼)または PT(SUS・アルミ)
  • 圧力容器・配管の内部健全性 → UT または RT
  • 厚板の融合不良 → UT(RTでは線状欠陥が見えにくい)

設計図面の溶接記号に、検査方法を併記する。「すみ肉 6mm」だけでなく「すみ肉 6mm/MT 100%」と書く。検査範囲(100%/抜き取り)も指定する。

まとめ

設計者の溶接指示は、材質記号と溶接記号で完結しない。

  • 炭素鋼:Ceq を確認し、予熱・PWHT の要否を判断する
  • ステンレス鋼:腐食環境では L グレードで指定する
  • アルミ:溶接法・前処理・検査基準まで図面で押さえる
  • NDT:欠陥の場所と材質で 4 種を使い分け、検査範囲も明記する

材料側の特性を理解せずに「溶接記号を付けたから設計責任は果たした」とする思考が、量産で事故を起こす。指示書に何を書かないと現場が困るかで図面の完成度を測る。

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ABOUT ME
一松(いちまつ)
一松(いちまつ)
大学院(機械工学専攻)修了後、機械設計エンジニアとして設計一筋20年
大学院(機械工学専攻)修了後、製造業で機械設計に従事。20年以上、動力機器の設計開発に携わっています。現場の知見から「考えるための情報」を発信しています。
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