溶接歪みを設計で抑える4原則|すみ肉継手の強度の決め方
溶接構造の歪みは、現場の腕では消せない。設計段階で熱の入れ方と継手の配置を決めた瞬間に、歪みの大半が決まる。現場ができるのは、決められた範囲内で順序と治具を工夫することだけ。
本稿は、入門編で継手側を決めた設計者が、次に押さえるべき3つの実務領域をまとめる。熱歪みの抑え方、すみ肉強度の計算、溶接記号の正しい書き方。
入門編 を前提にする。
熱歪みのメカニズム:「冷えて縮む」だけでは説明できない
溶接の歪みは「加熱で膨張、冷却で収縮」と説明される。しかし実際は、もっと一段深い現象だ。
- 加熱・膨張:溶接部は瞬時に高温になり、膨張しようとする
- 周囲の拘束:冷たい母材がガッチリ抑え、自由に膨張できない
- 圧縮塑性変形:行き場を失った膨張力が、高温で軟化した溶接部自身を圧縮方向に塑性変形させる
- 過剰な収縮:冷えるとき、溶接部は元のサイズに戻るのではなく、圧縮された分だけ余計に縮む
- 歪み・残留応力:この「余計な収縮」が母材を引っ張り、曲げ・反り・残留応力として現れる
要点は 3 の圧縮塑性変形だ。ここで母材寸法が一度小さくなっているため、冷却後は「元より小さい」状態に戻る。「冷えて縮む」だけなら膨張前のサイズに戻るはずなのに、戻らないのはこのため。

歪みを潰す4つの設計原則
メカニズムが分かれば、対策は決まる。
原則1:溶接量を最小にする 歪み量は溶融金属の体積に概ね比例する。脚長を「念のため大きく」は禁句。計算で必要最小限を出す。
原則2:対称に配置する 中心線に対して左右・上下対称に溶接箇所を配置すれば、収縮力が打ち消し合う。非対称配置で歪みが想定の数倍出る事例は多い。
原則3:溶接順序を図面で指示する 熱を一点に集中させない。飛び石溶接、対称交互溶接など順序を指定する。これは図面の「注記」欄に書く。現場任せにすると順序が安定しない。
原則4:治具で拘束する(ただし残留応力に注意) 強固な治具で物理拘束すれば見かけの歪みは減る。だが内部残留応力が増える。疲労破壊や歪みの遅れ発生(時効歪み)の温床になるため、製品の使用環境で許容できるか判断する。
すみ肉溶接の強度:脚長 S とのど厚 a
T継手・L継手で最頻出するすみ肉溶接。強度設計の基準量は2つ。
- 脚長 S:ビード断面を直角二等辺三角形と見なしたときの等辺長さ。設計者が図面で指示する寸法
- のど厚 a:ビード断面で最も短い距離。強度計算の基準量
両者の関係。
a = 0.707 × S (厳密値)
a ≈ 0.7 × S (実務近似)
のど断面がせん断に耐えるとして、許容荷重 P は次式。
P = τa × a × L
τa : 材料の許容せん断応力
a : のど厚
L : 溶接長さ
設計上の落とし穴:脚長 S を 1mm 増やすと、溶接金属体積はおよそ 2 乗で増える(S² に比例)。S=6 → S=8 で 78% 増、S=10 で 178% 増。コストも歪みも倍々で膨らむ。「念のため大きく」は3重の損失(材料・加工時間・歪み)。
精度が必要な面は溶接後の機械加工で出す
溶接で μ オーダーの寸法精度は出ない。歪みと残留応力で必ず動く。
ベアリング穴、モーター取付面、シール面など、寸法精度が要求される箇所は 「溶接後に機械加工で仕上げる」前提で図面を作る。
設計者が図面に盛り込む情報。
- 加工代(しろ):削り代を見越した余肉。鋳鉄なら片側2〜3mm、薄板溶接構造なら1〜2mmが目安
- 加工基準(データム):歪んだ後でもどこを基準に削るか。データム面を最初に荒加工で出してから本加工に進む手順を想定する
「全面機械加工」と書けば済むわけではない。どこを基準に、どの順で削るかまで設計の責任範囲だ。
溶接記号(JIS Z 3021):基線の上下で「どちら側か」が変わる

設計意図を現場に伝える共通言語。書き方を間違えると、反対側に溶接される。
基本構成
- 基線:水平線。情報を書き込む台
- 矢:基線から斜めに伸び、溶接箇所を指す
- 尾:基線の反対端。補足情報(順序、工法、検査)を書く
最重要ルール
矢が指す側(手前側)の指示は基線の下側、反対側(向こう側)の指示は基線の上側に書く。これが図面記号で最も誤読が多い部分。
すみ肉溶接の指示例
- ▲ :すみ肉溶接の記号
- 記号の左に脚長 S(例:▲6 → 脚長6mm)
- 記号の右に溶接長さ L
便利な追加記号
- ○(全周溶接):矢と基線の交点に丸 → 「ぐるっと一周」
- ⚑(現場溶接):交点に旗 → 「工場ではなく現場で」
溶接記号は単なる略図ではない。図面の他の寸法と同じく、契約レベルの仕様だ。コストと品質を直接左右する。
まとめ
設計段階で押さえるべきこと。
- 熱歪みは圧縮塑性変形 → 過剰収縮の連鎖。冷却後は元のサイズに戻らない
- 歪み対策の4原則:最小量・対称・順序・治具。治具拘束は残留応力と引き換え
- すみ肉強度は a = 0.7S と P = τa·a·L で計算。脚長は S² でコスト増
- 精度が必要な面は溶接後の機械加工を前提に、加工代とデータムを図面に明記
- 溶接記号は基線の上下で側が変わる。最頻出の誤読ポイント
「現場が頑張れば歪みは減る」と思っているうちは、設計の責任を製造に押し付けている。図面で 80% は決まっている。

