設計一般

モータの必要トルクを求めるには加速時間が必要

ichimatsu

はじめに:「このモータで足りますか」には答えられない

装置の駆動部を検討していると、「27kgのロールを300min⁻¹で回したい。何ワットのモータを選べばいいか」という相談が回ってきます。ロールの寸法も材質も回転数も分かっています。でもこれだけでは必要トルクは計算できません。

足りないのは加速時間です。

同じロールを同じ回転数まで回す場合でも、5秒かけて立ち上げるのか、0.5秒で立ち上げるのかで、モータに要るトルクは8倍違います。そして加速時間は、負荷からだけでは求められません。設計者が値を決める必要があります。

モータ選定の計算式は各社の技術資料に載っていて、式そのもので迷うことはあまりないと思います。しかし、式の中身をのぞいていくと、多くの人が行き詰りがちなポイントがあります。この記事では必要トルクを負荷トルクと加速トルクに分け、加速時間がどちらにどう効くか、減速機を挟むと何が変わるかを数値例で追います。


必要トルクは負荷トルクと加速トルクの和で表す

モータに要求するトルクは、二つの成分の和に安全率をかけて表します。

TM = (TL + TA) × S

TM : モータの必要トルク [N・m]
TL : 負荷トルク [N・m]
TA : 加速トルク [N・m]
S  : 安全率

負荷トルクは、一定速度で回し続けるために要るトルクです。軸受とシールの摩擦、重力、切削抵抗、風損などが入ります。運転条件が決まれば計算できます。

加速トルクは、静止状態から目標の回転数まで持っていくために要るトルクです。慣性モーメントと角加速度の積で表します。

TA = J × ω / t

J : モータ軸から見た全慣性モーメント [kg・m2]
ω : 目標角速度 [rad/s]
t : 加速時間 [s]

角速度は回転数から換算します。

ω = 2π N / 60

N : 回転数 [min-1]

安全率は、機構部の摩擦のばらつきと電源電圧の変動を見込んだ係数です。オリエンタルモーターの選定計算では、計算で求める場合の安全率を2としています。実測で負荷トルクが分かっている場合は、もっと小さく取ることもあります。

式の中で、加速時間 t だけが性質の違う数字です。負荷トルクの各項は装置の仕様から出てきます。慣性モーメントは形状と材質から出てきます。加速時間はどこからも出てきません。


加速時間を10分の1にすると、必要トルクは8倍になる

冒頭のロールで実際に計算します。

鋼製のロール、外径300mm、幅50mmとします。

半径 r = 0.15 m
体積 V = π × 0.15^2 × 0.05 = 3.534 × 10^-3 m3
質量 m = 7850 × 3.534 × 10^-3 = 27.7 kg
慣性モーメント J = (1/2) × 27.7 × 0.15^2 = 0.312 kg・m2

目標回転数は300min⁻¹です。

ω = 2π × 300 / 60 = 31.4 rad/s

軸受とシールの摩擦による負荷トルクを0.5N・mと仮定します。加速時間を3水準で振ります。

加速時間 加速トルク TA 負荷トルク TL 必要トルク(S=2)
5.0 s 1.96 N・m 0.5 N・m 4.9 N・m
1.0 s 9.80 N・m 0.5 N・m 20.6 N・m
0.5 s 19.6 N・m 0.5 N・m 40.2 N・m

回す物は同じです。回転数も同じです。加速時間を5.0秒から0.5秒に詰めただけで、必要トルクは4.9N・mから40.2N・mへ8倍になります。モータの枠番でいえば2段か3段。減速機も軸継手も軸径も、そのぶん大きくなります。

装置の仕様書に加速時間が書かれていることは少ないと思います。書かれているのはタクトタイムです。1サイクル何秒、そのうち搬送に何秒と、全体の時間だけが決まっています。加速時間は、タクトタイムを工程に割り振るときに設計者が決める必要があります。

つまり、モータを大きくしているのは負荷ではありません。タクトタイムを割り振った設計者です。

図1:加速時間の効き方は駆動する軸によって正反対になる


加速時間が効かない軸もある

同じ計算を垂直軸でやると、結果は逆に出ます。

ボールねじで質量100kgを持ち上げる軸を考えます。リード10mm、ボールねじの効率0.9、上昇速度0.3m/s。

重力による負荷トルクを計算します。

TL = m g P / (2π η)
   = 100 × 9.81 × 0.01 / (2π × 0.9)
   = 1.74 N・m

直動部の質量をねじ軸の慣性モーメントに換算し、ねじ軸自身(外径20mm・長さ500mm)の分を足します。

直動部の換算 J1 = m × (P / 2π)^2 = 100 × (0.01 / 2π)^2 = 2.53 × 10^-4 kg・m2
ねじ軸       J2 = 6.17 × 10^-5 kg・m2
合計         J  = 3.15 × 10^-4 kg・m2

上昇速度0.3m/sはリード10mmで1800min⁻¹にあたります。

ω = 2π × 1800 / 60 = 188 rad/s
加速時間 加速トルク TA 負荷トルク TL 必要トルク(S=2)
0.5 s 0.12 N・m 1.74 N・m 3.7 N・m
0.1 s 0.59 N・m 1.74 N・m 4.7 N・m

加速時間を5分の1にしても、必要トルクは1.26倍にしかなりません。トルクの大半を重力が占めているからです。

ロールの例と垂直軸の例で、加速時間の効き方が正反対になります。慣性が支配する軸では加速時間がそのまま必要トルクに乗ります。重力が支配する軸では、加速時間を詰めても必要トルクはあまり増えません。

見分け方は単純です。負荷トルクと加速トルクの比を見ればいいのです。加速トルクのほうが大きい軸では、タクトタイムをどう取り合うかでモータの大きさが決まります。負荷トルクのほうが大きい軸では、加速時間を詰めても構いません。詰めるべきなのは別の工程です。

※ 垂直軸では下降時の回生と、停止中の保持を別に確認します。上昇のトルクだけで選ぶと、電源を切った時点で自重で落ちます。保持は電磁ブレーキの役目です。


減速機を入れると加速トルクは減速比の1乗で減る

減速機を挟むと、モータ軸から見た負荷は換算した値に変わります。減速比を i、減速機の効率を η とした換算式です。

負荷トルクの換算   TL' = TL / (i η)
慣性モーメントの換算 J'  = J / i^2
モータの回転数     NM  = N × i

ここで慣性モーメントだけが減速比の2乗で効きます。25分の1、100分の1と一気に小さくなるので、加速が同じ比率で楽になると読みたくなります。しかし加速トルクは2乗では減りません。

モータ軸では目標角速度も i 倍になるためです。式に入れると、2乗のうち1乗ぶんが打ち消されます。

TA' = J' × ω' / t = (J / i^2) × (i ω) / t = (J ω / t) / i = TA / i

加速トルクが減るのは減速比の1乗ぶんです。先ほどのロールに減速比5・効率0.97の平歯車減速機を入れて確かめます。加速時間は1.0秒とします。

J'  = 0.312 / 25 = 0.0125 kg・m2
ω'  = 2π × 1500 / 60 = 157 rad/s
TA' = 0.0125 × 157 / 1.0 = 1.96 N・m   (減速機なしでは9.80 N・m)
TL' = 0.5 / (5 × 0.97) = 0.10 N・m
TM  = (0.10 + 1.96) × 2 = 4.1 N・m

必要トルクは20.6N・mから4.1N・mへ、ほぼ5分の1になりました。そのかわりモータの回転数は300min⁻¹から1500min⁻¹へ5倍です。

トルクと回転数の積を取ると、どちらの構成でも650W前後になります。減速比を変えても、モータに要求される出力は変わりません。変わるのはトルクと回転数の組み合わせだけです。

だから減速比は「トルクが足りないから上げる」ものではありません。モータのカタログにある定格トルクと定格回転数の組を見て、その両方に収まる i を探す作業です。減速比を上げすぎると、今度は定格回転数を超えます。歯車で減速比を作る場合は、中心距離とモジュールの制約も同時にかかります(歯車のモジュールの決め方)。


カタログのトルクは2種類あり、見る相手が違う

サーボモータのカタログには、連続定格トルクと瞬時最大トルクが載っています。加速トルクを瞬時最大トルクとだけ比べて終わらせてしまうと、実使用時にモータが過熱します。

  • 瞬時最大トルク … 加速中・減速中の最大トルクを比べる相手。数秒しか出せない
  • 連続定格トルク … 実効トルクを比べる相手。連続で出し続けられる

実効トルクは、1サイクルのトルク波形を二乗平均平方根で均した値です。

Trms = √( Σ Ti^2 ti / Σ ti )

先ほどの減速比5のロールで、1サイクルを組んでみます。加速1秒、定速3秒、減速1秒、停止5秒の10秒周期とします。

加速中 T1 = 0.10 + 1.96 = 2.06 N・m   t1 = 1 s
定速中 T2 = 0.10 N・m                 t2 = 3 s
減速中 T3 = 0.10 - 1.96 = -1.86 N・m  t3 = 1 s
停止中 T4 = 0                         t4 = 5 s

Σ Ti^2 ti = 2.06^2 × 1 + 0.10^2 × 3 + 1.86^2 × 1 = 7.74
Trms = √(7.74 / 10) = 0.88 N・m

瞬時最大の2.06N・mに対して、実効トルクは0.88N・mです。連続定格1.0N・mのモータで成立します。

ここで、停止時間だけを5秒から1秒に詰めます。動かし方は何も変えていません。周期が10秒から6秒になるだけです。

Trms = √(7.74 / 6) = 1.14 N・m

連続定格1.0N・mを超えました。同じ動作、同じ加速時間でも、休んでいる時間を削るとモータが足りなくなります。

モータの発熱は、動いている間だけで決まりません。停止時間も分母に入っています。装置の稼働率を上げる改善は、駆動系では連続定格を圧迫する変更です。既存装置のタクトタイムを詰める依頼が来たときは、加速時間を触っていなくても実効トルクを引き直します。

図2:実効トルクには止まっている時間も入っている


効率は負荷トルクにだけかける

効率は減速機・ボールねじ・ベルトそれぞれに付いています。負荷トルクの換算で一度かけたあと、必要トルクの段でもう一度かけてしまう取り違えが起きます。効率をかける対象は負荷トルクだけです。慣性モーメントの換算では効率をかけません。減速比の2乗で割るだけです。

ウォームギヤを使う場合は、効率の扱いがもう一段細かくなります。ウォームの効率は進み角と摩擦係数で大きく変わり、減速比を大きく取るほど落ちます。さらにカタログには起動効率とランニング効率が別々に載っていて、起動時のほうが低い値です。ランニング効率で選ぶとモータが起動しません(ウォームギヤのセルフロック)。

平歯車1段で0.97、ボールねじで0.9前後が目安になりますが、実機では潤滑の状態と組立直後のなじみで変わります。カタログ値をそのまま使うなら、安全率で吸収しておいたほうが確実だと思います。


選定計算の順序

これまでの内容を整理すると、下記の順番になります。

  1. 負荷トルクを計算する。摩擦・重力・加工抵抗
  2. 各部の慣性モーメントを求め、モータ軸へ換算する。直動部も換算する
  3. 加速時間を決める。タクトタイムのどこを使うかを自分で置く
  4. 加速トルクを計算し、負荷トルクとの比を見る
  5. 減速比を仮に置き、トルクと回転数の両方がモータの定格に収まる組を探す
  6. 1サイクルのトルク波形から実効トルクを出し、連続定格と比べる
  7. 加速中の最大トルクを瞬時最大と比べる
  8. モータ軸換算の負荷慣性と、モータのロータ慣性の比を確認する

8番目の慣性比は、カタログに許容負荷慣性モーメント比として上限が書かれています。上限を超えると、トルクが足りていても位置決めが振動して収まりません。機種によって値が違うので、選定の最後に該当機種の欄で確認します。

3番目で決めた加速時間は、あとの工程に何度も出てきます。加速時間を短くすると、瞬時最大トルクが上がり、実効トルクも上がり、慣性比の要求も厳しくなります。1か所の数字が3か所に波及します。


まとめ

  • 必要トルクは負荷トルクと加速トルクの和。加速トルクは加速時間で決まる
  • 加速時間は負荷の仕様には書かれていない。タクトタイムを割り振る設計者が置く数字
  • 慣性が支配する軸は、加速時間を1/10にすると必要トルクが8倍になる。重力が支配する軸では1.26倍
  • どちらの軸かは、負荷トルクと加速トルクの比を出せば分かる
  • 減速機で加速トルクが減るのは減速比の1乗ぶん。慣性は2乗で減るが、角速度が i 倍になる分だけ戻る
  • 減速比を変えてもモータの出力は変わらない。変わるのはトルクと回転数の組み合わせ
  • 加速トルクは瞬時最大、実効トルクは連続定格と比べる
  • 停止時間を削ると実効トルクが上がる。動かし方を変えなくてもモータが足りなくなる

「このモータで足りますか」と聞かれたら、加速時間を聞き返しましょう。

ABOUT ME
一松(いちまつ)
一松(いちまつ)
大学院(機械工学専攻)修了後、機械設計エンジニアとして設計一筋20年
大学院(機械工学専攻)修了後、製造業で機械設計に従事。20年以上、動力機器の設計開発に携わっています。現場の知見から「考えるための情報」を発信しています。
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