歯車のモジュールの決め方、面圧は歯幅で曲げはモジュールで合わせる
はじめに:モジュールから決めると中心距離が合わない
歯車の設計手順は動力と回転数から曲げ強さでモジュールを仮決めし、歯数を割り付け、最後に中心距離を確認する順で書かれています。しかし、実際の現場ではそうはいかないことが多いです。中心距離がポイントになります。
実務で歯車を追加したり作り替えたりするとき、中心距離は変更できないことが多くあります。ハウジングの軸穴が既にある。軸の位置を他の部品との干渉で変えられない。既存の歯車列に一段足す。中心距離が決まった状態でモジュールから決めにいくと、求める減速比を設定しようとする歯数もしくは中心距離が成立しなくなります。
中心距離が決まった時点で、モジュールと歯数は独立に選べません。組み合わせでしか選べなくなります。
そして強度の合わせ方も変わります。歯面の面圧はモジュールを変えても変化しません。モジュールが効くのは歯元の曲げです。
この記事では中心距離からモジュールと歯数を絞り、面圧と曲げをそれぞれどうやって成立させていくかを説明します。
中心距離が決まると、モジュールと歯数の積が決まる
平歯車のピッチ円直径はモジュールと歯数の積で表します。
d = m × z
一対の歯車の中心距離は二つのピッチ円直径の和の半分です。
a = (d1 + d2) / 2 = m × (z1 + z2) / 2
中心距離 a が先に決まっているなら、式を下記の様に歯数で表しましょう。
z1 + z2 = 2a / m
減速比 u も普通は先に決まっています。u = z2 / z1 なので、歯数の和が決まれば z1 と z2 の両方が決まります。モジュールを選べば歯数は自動的に決まります。自由度は少なく、モジュールと歯数の組み合わせの選択だけです。
中心距離 120 mm、減速比 3 の場合を例に挙げます。
| モジュール | 歯数の和 | 小歯車 z1 | 大歯車 z2 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 2 | 120 | 30 | 90 | 成立 |
| 2.5 | 96 | 24 | 72 | 成立 |
| 3 | 80 | 20 | 60 | 成立 |
| 4 | 60 | 15 | 45 | 小歯車が 17 枚を下回る |
| 5 | 48 | 12 | 36 | 小歯車が 17 枚を下回る |
モジュールを上げるほど歯数が減ります。中心距離が決まっていると、歯を大きくすれば歯車上の歯の本数が減るためです。

歯数の和が整数にならないモジュールでは中心距離が合いません。中心距離 120 mm でモジュール 3.5 なら、歯数の和は 68.57 になります。歯数は整数なので、68 枚か 69 枚に丸めた上で転位して中心距離を 120 mm に合わせ込みます。
歯面の面圧はモジュールで変化しない
歯面強さの計算式は日本歯車工業会の JGMA 6102-02:2009(平歯車及びはすば歯車の歯面強さ計算式) で定義されています。歯面に発生するヘルツ応力を許容値と比較します。
式中には、かみ合いピッチ円上の円周力、有効歯幅、ピッチ円直径、歯数比、それに領域係数や材料定数係数などが登場します。モジュールは登場しません。
歯を大きくすれば歯面も強くなりそうに思いがちですが、実際には変化しません。かみ合い点の接触部を円筒どうしの接触として扱ったとき、曲率半径はピッチ円直径と圧力角で決まります。
ρ = (d / 2) × sinα
ピッチ円直径が同じなら、モジュールをいくつにしても曲率半径は同じです。接触部の当たり幅も同じになります。中心距離と減速比が決まった時点でピッチ円直径は決まっているので、モジュールを 2 から 3 に上げても面圧は変わりません。
(厳密にいうと、モジュールを変えると歯数が変わるため、かみ合い率係数 Zε を通じて計算値は少し変化します。ただし歯幅を変えたときの効き方と比べれば小さく、面圧を合わせにいく手段としてはほぼ使えません)
面圧を下げる手は三つです。
- 歯幅を広げて円周力あたりの負担を減らす
- 材料と熱処理を変えて許容ヘルツ応力を上げる
- 中心距離を見直してピッチ円直径を大きくする
上の二つは歯車の中で完結します。三つ目はレイアウトに戻る話になるので、他部品の配置まで巻き込みます。面圧が足りないときに最初に触るのは歯幅です。
モジュールが効くのは歯元の曲げ
曲げ強さの計算式は JGMA 6101-02:2007(平歯車及びはすば歯車の曲げ強さ計算式) で定義されています。歯を片持ちのはりとみなして、歯元に発生する曲げ応力を許容値と比較します。
歯元曲げ応力は次の式で表します(JGMA 401-01:1974)。
σF = Ft / (b × mn × YF × Yε × Yβ) × KV × KO / SF
- Ft:かみ合いピッチ円上の円周力
- b:歯幅
- mn:歯直角モジュール
- YF:歯形係数
- Yε:荷重分配係数
- Yβ:ねじれ角係数
- KV:動荷重係数、KO:過負荷係数、SF:安全率
モジュールが分母に入っています。歯幅と同じ位置です。モジュールを 2 から 3 に上げれば、他の係数が同じなら歯元の曲げ応力は 3 分の 2 になります。
ただしモジュールを上げると、曲げ応力以外にも影響が出ます。モジュールを上げると歯数が減り、歯元の幅が相対的に細くなるため、歯形係数 YF は不利な側へ変化します。モジュールを 1.5 倍にしても曲げ応力が単純に 3 分の 2 になるわけではなく、実際の低減はもう少し小さくなります。
それでも、歯元の曲げを強くしたい時に効くのはモジュールです。
同じ中心距離で二つ並べる
先ほどの表から、中心距離 120 mm・減速比 3 の組み合わせを二つ取り出します。伝達トルクは同じとします。
| m = 2 | m = 3 | |
|---|---|---|
| 小歯車の歯数 z1 | 30 | 20 |
| 小歯車のピッチ円直径 d1 | 60 mm | 60 mm |
| 円周力 Ft | 同じ | 同じ |
| 面圧 | 同じ | 同じ |
| 歯元の曲げ応力 | 基準 | 約 3 分の 2 |
円周力は Ft = 2T / d1 で決まります。ピッチ円直径が 60 mm で共通なので、円周力も共通です。歯面強さの式に入るのは円周力・歯幅・ピッチ円直径・歯数比なので、m = 2 と m = 3 で面圧は同じ値になります。歯を大きくしたぶん一枚あたりの負担が減るように見えても、接触部の曲率も当たり幅も変わっていません。
曲げは違います。歯形係数の変化を無視すれば、m = 3 のほうが歯元の曲げ応力は 3 分の 2 になります。
同じ中心距離・同じトルクでモジュールを変えたとき、変化するのは歯元の曲げです。

設計順序は面圧が先で、曲げが後
面圧と曲げで効く量が違うので、設計順序がおのずと決まります。
1. 中心距離と減速比からピッチ円直径を出す
ここで面圧の土台が決まります。以降は歯車の中でピッチ円直径を変えられません。
2. 面圧を歯幅で合わせる
歯幅は一般に モジュールの 8 倍から 12 倍 の範囲に収めます。広げるほど面圧には効きますが、上限があります。軸のたわみとハウジングの精度で歯すじ方向の当たりが偏るためです。歯幅を広げた分の荷重が端に集中すると、面圧を下げる目的で広げたのに端部の面圧が上がります。歯幅を 12 倍より広げるときは、歯すじ修整(クラウニング)とセットで検討します。
3. 歯元の曲げをモジュールで合わせる
歯幅が決まった状態で曲げを確認します。持たなければモジュールを一段上げます。モジュールを上げると歯数が減るので、歯数の下限に当たっていないかを同時に確認。
4. 収まらなければ中心距離に戻る
歯幅を上限まで広げても面圧が持たない場合、歯車諸元だけではどうしようもないということです。中心距離を大きくしてピッチ円直径を上げるか、材料と熱処理を上げるかになります。中心距離の変更はレイアウトの変更です。関係する部品が増える前に、早い段階で決める必要があります。
モジュールを上げる際の上限
モジュールを上げる際、曲げ応力が下がる前に制限が出てきます。
歯数 17 枚
圧力角 20 度の標準歯車では、歯数が 約 17.1 枚 を下回るとインボリュート曲線の一部が削り取られます。切下げ(アンダーカット)です。歯元が細くなるため、曲げ強さを稼ぐ目的でモジュールを上げたのに歯元が弱くなります。
実務では 17 枚を健全な歯形の下限として扱います。17 枚を下回る場合は転位で歯形を確保しますが、転位量が増えると歯先が尖ってくるので、いくらでも下げられるわけではありません。
かみ合い率
同時にかみ合う歯の対数を表すかみ合い率は歯数が減ると小さくなり、一対の歯が荷重を受け持つ区間が長くなります。伝達誤差が大きくなり、騒音と振動が増えます。
静粛性が要求される歯車列では、曲げ強さに余裕があってもモジュールを上げずに歯数を残す判断をします。
工具の入手性
歯切り工具は標準モジュールの系列に合わせて作られています。標準値は JIS B 1701-2:2017(円筒歯車-インボリュート歯車歯形-第2部:モジュール) で定められていて、第一系列と第二系列に分かれています。第一系列から選べば、ホブや素材の入手で待たされません。
中心距離の計算で第二系列や系列外のモジュールが出てきたときは、第一系列に寄せてから転位で中心距離を合わせるほうが、結果として納期で有利になることが多くあります。
端数の中心距離は転位かねじれ角で合わせる
歯数は整数なので、中心距離を切りのよい数値に置くと歯数の和が割り切れないことがあります。平歯車では転位で合わせます。転位係数を与えて基準円から歯切り工具の位置をずらし、かみ合いピッチ円を動かして中心距離を合わせ込む方法です。
はすば歯車にはもう一つ手があります。歯直角モジュールを mn、ねじれ角を β とすると、正面モジュールと中心距離は次の式で表します。
mt = mn / cosβ
a = mn × (z1 + z2) / (2 × cosβ)
ねじれ角を変えると cosβ が連続的に変わるので、歯数を整数に保ったまま中心距離を任意の数値に合わせられます。歯切り工具は歯直角モジュールで共通なので、ねじれ角を変えても同じホブを使えます。
ただしねじれ角を大きくすると、歯面に発生する軸方向の推力(スラスト)が増えます。軸受の選定と軸の支持構造に跳ね返るので、ねじれ角は中心距離の調整のためだけに決める値ではありません。一般の動力伝達では 15 度から 30 度の範囲に収めることが多いと思います。
モジュールを下げる場合の制限
モジュールを下げれば歯数が増え、かみ合い率が上がって静かになります。曲げ応力は上がりますが、歯幅で面圧を合わせた後なら余裕が残ることもあります。下げる際の制限は三つです。
- 欠け:歯が小さいほど、異物の噛み込みや過負荷で歯先が欠けやすくなります
- 摩耗代:同じ摩耗量でも歯厚に対する割合が大きくなります。粉じんの多い環境や潤滑の条件が悪い用途では、摩耗を見込んでモジュールを大きめに取ります
- 歯すじ修整:小さい歯にクラウニングを入れると、修整量が歯の寸法に対して相対的に大きくなります
静粛性を優先してモジュールを下げるときは、想定する使用環境の粉じんと潤滑を先に確認します。
中心距離を自分で決められる場合
新規のレイアウトで中心距離に制約がないなら、教科書どおりの順序を使えます。曲げ強さから必要なモジュールの最小値を求め、歯数を割り付け、中心距離を算出する流れです。
中心距離を決められる場合でも、最後に切りのよい数値へ寄せる作業が入ります。ハウジングの加工と測定を考えると、中心距離 118.75 mm より 120 mm のほうが扱いやすいためです。歯数を整数に保ったまま中心距離を変えるので、転位で合わせます。
転位は小歯数の救済だけの手段ではありません。中心距離を切りのよい数値に合わせ込む用途でも使います。
図面に落とす前の確認項目
- 中心距離と減速比から、モジュールと歯数の組み合わせを表にしたか
- 小歯車の歯数が 17 枚以上あるか。下回るなら転位量を決めたか
- 面圧の照査を歯幅で合わせたか。モジュールで合わせようとしていないか
- 歯幅がモジュールの 12 倍を超えていないか。超えるなら歯すじ修整を指定したか
- モジュールが JIS B 1701-2 の第一系列にあるか
- 中心距離が端数になっていないか。転位係数を諸元表に記入したか
まとめ
- 中心距離が決まると、モジュールと歯数は独立に選べない。
z1 + z2 = 2a / mで組み合わせが決まる - 歯面強さの計算式にモジュールは現れない。面圧はピッチ円直径と歯幅で決まる
- 曲げ強さの計算式ではモジュールが分母に入る。歯元の曲げに効くのはモジュール
- 設計順序は、面圧を歯幅で、歯元の曲げをモジュールで
- モジュールを上げる方向には、歯数 17 枚・かみ合い率・工具の入手性が制限として先に当たる
- 端数の中心距離は転位で合わせる。はすば歯車ならねじれ角でも合わせられる
モジュールの数値を見て大きい小さいを議論しても、面圧は変化しません。中心距離と歯幅を一緒に並べて初めて、どこを変えれば強度が合うかが決まります。
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