ウォームギヤのセルフロックが外れる条件、進み角と振動から絞る
はじめに:セルフロックを保持と考えると荷が止まらない
ウォームギヤは出力側から回せません。出力側に荷がぶら下がっている状況で駆動側の荷重がなくなっても出力側にぶら下がっている荷は動きません。昇降装置や旋回機構で別体のブレーキを省くための構造として使われています。
しかし減速機メーカーのカタログに書かれていることは違います。住友重機械のウォーム減速機の技術資料には「運転中は、セルフロック性はありません」とあり、続けて「負荷をセルフロックにて停止させることは出来ません」と明記されています。例として挙がっているのが昇降装置の下降中の負荷です。
セルフロックが成立するのは「静止状態」だけです。動いている荷は止まりません。振動が加われば静止状態でも外れます。
ポイントは進み角です。進み角と摩擦角の大小関係で、逆転するかしないかが決まります。摩擦係数は運転条件で変わりますから、摩擦係数は固定ではありません。
この記事では進み角と摩擦角の関係からセルフロックが外れる条件を解説し、逆転防止の設計手順を取り扱います。
セルフロックの成立条件は進み角と摩擦角の大小
平歯車やはすば歯車でセルフロックは起きません。かみ合いが転がりを主体としているからです。歯車の基礎的なパラメータは歯車設計の基礎で扱いました。ウォームギヤだけは、ねじと同じすべり接触で動力を伝えます。歯面の摩擦が伝達を支配し、逆転するかどうかまで摩擦が決めます。
ウォームのつる巻き線が軸直角面となす角度が進み角です。1回転で軸方向にどれだけ進むかを角度で表したものです。条数が多いほど、また減速比が小さいほど大きくなります。
小原歯車工業の技術資料では、ウォームホイール側から回そうとしたときの接線力を次の式で表しています。
Ft1 = Fn (cos αn ・ sin γ − μ cos γ)
Ft1 : ウォームを回そうとする接線力
Fn : 歯面に垂直な力
αn : 歯直角圧力角
γ : 基準円筒進み角
μ : 摩擦係数
Ft1 が 0 より大きければセルフロックしません。その際の変数は、歯直角圧力角・進み角・摩擦係数の三つです。圧力角は 20° などに決まっているので、実際の変数は進み角と摩擦係数の二つだけです。
摩擦係数を角度に直したものが摩擦角です。
ρ = arctan μ
セルフロックする : γ < ρ
セルフロックしない : γ > ρ
進み角が摩擦角より小さければ、歯面が滑り出す前に摩擦で止まります。進み角が小さくなるほどセルフロック性は上がる、と同じ資料にも書かれています。

進み角を左右するのは条数
進み角は独立して選べる値ではありません。軸方向モジュール・条数・基準円直径の三つで決まります。
1回転あたりの軸方向の進み量がリードです。小原歯車工業の資料では次のように定義されています。
pz = π ・ mx ・ z1
pz : リード
mx : 軸方向モジュール
z1 : ウォームの条数
リードを基準円筒の円周で割ったものが進み角の正接です。
tan γ = pz / (π ・ d1) = mx ・ z1 / d1
d1 : ウォームの基準円直径
条数 z1 が分子に入っています。1条から2条にすればリードが倍になり、進み角も上がります。同時に減速比は半分です。減速比 i はウォームホイールの歯数 z2 と条数 z1 の比で決まります。
i = z2 / z1
減速比を下げる計算と、進み角を上げる計算は同義です。
セルフロックしないウォームギヤを作りたい場合、実務で変えるのは条数です。多条にすれば進み角が摩擦角を超え、逆転するようになります。効率も上がります。圧力角も判定式に入っていますが、20° などの標準値から外す場面はまれです。
減速比 1:1 に近いウォームギヤでセルフロックを期待する設計は成立しません。z1 が z2 に近づくほど進み角は大きくなり、摩擦角を確実に超えます。停電時の保持を目的に低減速比のウォームを選ばないこと。一見理にかなっているようでも逆効果です。
減速比から進み角を読むと、境目が見える
進み角は図面を引く前に決まります。決めるのは減速比です。住友重機械のカタログには、公称減速比ごとの進み角が載っています。
| 公称減速比 | 進み角 |
|---|---|
| 5 | 21.2〜24.0° |
| 10 | 14.0〜18.0° |
| 20 | 9.3〜11.5° |
| 30 | 7.0〜8.7° |
| 40 | 5.7〜7.1° |
| 50 | 4.9〜6.0° |
| 60 | 4.3〜5.3° |
| 80 | 3.5〜4.3° |
| 100 | 3.0〜3.3° |
(住友重機械工業「効率とセルフロック性」より、サイズ A100〜400 の範囲)
鋼と鋼の歯面で潤滑が効いている状態の摩擦係数を 0.05〜0.10 と置けば、摩擦角は 2.9〜5.7° です。表と突き合わせると、境目は減速比 50 から 60 のあたりに来ます。
減速機メーカーの推奨も同じ帯にあります。ただし数値は一致していません。
- 住友重機械:セルフロック性を必要とする用途では減速比 50 以上を選定
- 椿本チエイン:ウォームギヤ一段で減速比 1/60 であればセルフロック効果が期待できる
10 の差があります。摩擦係数の置き方と歯面の仕様がメーカーごとに違うためで、どちらかが誤っているわけではありません。自分が使う減速機のカタログで確認すること。一般論の 4° や 50 を持ち込まない。

振動で摩擦係数が下がると、静止状態でも外れる
進み角が摩擦角より小さければ止まる。計算式ではそうなっています。しかし摩擦係数は固定値ではありません。
Machine Design 誌が示した計算例が分かりやすいので引用します。進み角 5°、静摩擦係数 0.13 のウォームギヤがあるとします。摩擦角は 7.4° です。進み角 5° より大きいので、静止状態ではセルフロックします。
ここに振動が加わって摩擦係数が 0.08 まで下がると、摩擦角は 4.6° になります。進み角 5° を下回りました。セルフロックは成立しません。
摩擦係数が 0.05 変化しただけでセルフロック状態が解除されます。しかも摩擦係数の変化は、静摩擦から動摩擦へ、つまり下がる側にしか変わりません。

厄介なのは、いったん逆転が始まったあとです。同誌は「バックドライブが始まると通常は継続する。摩擦係数は速度の増加とともに低下するから」と書いています。滑り出す、摩擦係数が下がる、さらに滑る。つまり、いったん動き始めると止まりません。
減速機メーカーの但し書きも同じ内容です。住友重機械は「セルフロック性は、歯車噛合い部分の摩擦の状態に影響されるため、逆転防止を保証することではありません」と書き、括弧で「静止時間が短い場合や、ショックや振動がある場合、セルフロックしないことがあります」と補っています。椿本チエインも「衝撃や振動が加わると低下することもある」としています。
Machinery's Handbook の記述では、自己ロック設計で安全を確保するのは通常実用的でない、必要なら何らかのブレーキを採用することを推奨する。と言い切っています。
摩擦係数は固定値ではない
振動以外にも摩擦係数を変化させる要因があります。住友重機械のカタログには効率の但し書きとして三つ書かれています。
- 効率の値はなじみ完了後のもの。組み立て直後の歯面は値が違う
- 入力回転数が低いほど効率が下がる。極低速では起動効率に近い値になる
- 負荷率が極端に小さい場合は個別に照会が必要
効率が変化するということは、歯面の摩擦状態が変化しているということです。セルフロックの判定に使った摩擦係数も同じだけ変化します。
なじみの進行、潤滑油の劣化と温度、歯面の面粗さ、すべり速度。どれも設計値として固定できません。組み立て直後にセルフロックしていた機構が、数千時間後の歯面でも同じように止まる保証はありません。
摩擦係数のばらつきが結果を左右するというのは、ボルトの締結でも同じです。トルクで締めても軸力がばらつく理由は、摩擦係数が条件で変化するところにあります。
判定に使った摩擦係数の条件を図面か計算書に残すこと。値だけを書いても、摩擦係数が変わった後だと検証ができなくなってしまいます。振動と衝撃の有無、潤滑の状態、なじみ完了前か後か。三つを書き添えます。
慣性が大きい負荷では、セルフロック性が危険側に振れる
セルフロックが効かないことだけが問題ではありません。効きすぎても壊れます。
椿本チエインは、負荷の慣性が大きい用途について「セルフロック及びセルフロック性により急制動が起こり非常に危険」と書いています。住友重機械も同じ向きで「負荷の慣性力(運動エネルギー)が非常に大きい用途ではセルフロック性があると、危険になります」とし、用途例にクレーンの走行・旋回を挙げています。
入力を止めた瞬間、出力側は慣性で回り続けようとします。セルフロックする組み合わせでは、回転を受け止めるのがウォームです。逃げ場のない運動エネルギーが歯面と軸受に入ります。
両社の推奨は、セルフロックの検討時と逆になります。
- 住友重機械:慣性力が大きい用途には減速比 20 以下を選定
- 椿本チエイン:減速比 1/10〜1/20 を選定
進み角でいえば 9〜11° 以上の側です。逆転させる設計を、あえて選びます。
セルフロックを使ってよい範囲
ここまで外れる側の条件を並べましたが、セルフロックが役に立たないわけではありません。部品を足さずに静止状態を保てる機構は、ほかにありません。
使ってよい範囲は、次の三つが揃うときです。
- 保持するのが「静止状態」に限られる(運転中の減速や停止に使わない)
- 振動と衝撃が入らない、または外れても危害が出ない
- 負荷の慣性が小さい
手動の調整機構、間欠動作のバルブ開度調整、負荷の軽い位置決め軸。条件が揃う用途は実際にあります。
セルフロックの条件が揃わない時は保持をブレーキに分けます。モータブレーキ、電磁ブレーキ、ラチェットのいずれかです。セルフロックは補助として残しておけばよく、能力を落とす必要はありません。
設計で何を決めるか
逆転防止をウォームギヤで扱うときに決める項目を並べます。
1. 保持するのが静止状態か、運動中の負荷か
下降中の荷を止めるならセルフロックは使えません。ブレーキの選定に進みます。
2. 減速比と進み角
セルフロックを当てにするなら減速比を上げます。慣性の大きい負荷では下げます。カタログの推奨値をメーカーごとに確認すること。進み角の値まで載っていれば、摩擦角と直接比べられます。
3. 摩擦係数をどこまで下げて見積もるか
静摩擦係数のカタログ値で判定すると、振動が入った条件を見落とします。振動と衝撃の有無、潤滑の状態、なじみ完了前後の三つを条件として書き出すこと。Machine Design 誌は、セルフロック性に依存する場合はメーカーに問い合わせて条件ごとの摩擦係数を確かめるよう勧めています。
4. ブレーキの併用と、制動の種類
住友重機械は「確実な逆転防止が必要な場合は、モータにブレーキを設けてください」としたうえで、「通常制動で良いか、急制動が必要かご確認ください」と続けています。ブレーキを付けるかどうかだけでなく、制動の種類まで決める必要があります。
5. 起動時の効率を別に見る
セルフロック側に寄せた減速比は効率が低くなります。同カタログは起動効率とランニング効率を分けていて、起動時はランニング効率より低い値です。長期間休止したあとの起動効率は、通常の起動効率の 80% として扱うよう指定されています。駆動側の動力は起動効率で確認すること。ランニング効率で選ぶと起動しません。
まとめ
- セルフロックが成立するのは「静止状態」のみ。運転中の負荷は止められない
- 条件は進み角と摩擦角の大小。進み角は減速比でほぼ決まる
- 進み角 5°・静摩擦 0.13 なら摩擦角 7.4° で成立。振動で摩擦係数が 0.08 に下がると摩擦角 4.6° となり不成立
- いったん逆転が始まると、速度上昇で摩擦係数がさらに下がるため止まらない
- セルフロックを必要とするなら減速比 50〜60 以上。慣性の大きい負荷では急制動が危険なため 10〜20 以下
- 推奨値はメーカーで異なる。使う減速機のカタログで確認する
- 確実な逆転防止はブレーキ。制動の種類まで決める
セルフロックは静止状態の保持機構であって、ブレーキではありません。

