組立手順書AIの出力の深さは入力の構造で決まります
組立手順書を作る仕事は従来設計者の仕事でした。3Dモデルを開いて、部品を一つずつ外しながら順序を確かめる。干渉するので順番を入れ替える。工具が入らないので向きを変える。試行錯誤の経過がそのまま手順書になります。
2026年に入って、組立手順書づくりをAIに下書きさせる製品が相次いで出ました。ただし出力された組立手順書の質は一律ではありません。AIに何を渡したか次第で、生成物が線画から工程表まで変わります。
方式は大きく三つ
写真から作るのがManualFig AIです。参照写真やスケッチを、説明書向けの線画・手順パネル・コールアウトに変えます。CADデータを持っていなくても図版が作れる。※提供元は「寸法入りCADの代わりを装うものではありません」と自社の記事に明記しています。
2D図面から作るのがホーラスAIのZumen AIで、2026年9月3日にサービスを開始しました。2D CAD図面をPDFやDXFでアップロードすると、AIが3Dモデルを作ります。STEP形式の3Dアセンブリを渡した場合は、各部品の配置や組立順序を認識してバラシ図面を自動作成します。料金は従量制で、1クレジット100円・3Dモデル作成が1件10クレジット・バラシ図面が1図面1クレジットです。
3D CADから作るのがScene株式会社の3D Docs AIです。2026年6月30日にβ版を公開しました。デンソー工機部との共同開発と発表しています。3D CADデータから組立工程、つまりM-BOMと組立手順書を作ります。

出力の深さは、AIに渡す情報の構造の深さで決まります
三つを分けているのはAIの賢さではありません。渡す情報の構造が違います。
写真で渡せるのは外から撮れる形だけです。内部の部品構成・ねじの本数・組む順は写っていません。だからアウトプットも見た目を整えた線画と手順パネルまで。
2D図面まで渡すと形状と寸法が加わります。組立順序は図面どうしの関係から推定することになります。STEPのアセンブリなら部品の配置情報も入る。バラシ図面が出てくるのはここからです。
3D CADのアセンブリには部品ツリーがあります。どの部品がどのユニットに属し、どの順で組む想定か。親子関係がモデルの中に既に入っています。M-BOMまで届くのは工程表の材料が最初から渡されているからです。
渡すのが形だけなら、アウトプットも形だけ。
どれもAIはドラフトまで。レビューは人が担います
三系統に共通しているのはAIが完成品を出す設計になっていない点です。Scene側は狙いを「AIにドラフトを作成させ、人によるレビューの組み合わせに置き換える」と説明しています。属人化しやすい設計付帯業務が対象で、狙いはTime to Market短縮と技術伝承の両立です。
ドラフトを受け取るなら、レビューできる人が要ります。AIが組立順序を一つ間違えたとき、間違いに気づけるのは実際に組んだことがある人か干渉を読める設計者です。AIを入れて人を減らした会社がベテランを呼び戻した話はAIを入れたら、AIに教える人が要りましたで扱いました。

効果があるかどうかを数字だけで鵜呑みにしないように。
Sceneは導入効果として次の数字を挙げています。図面の形状ミスを96%削減・組立手順書の作成工数を従来の1/3に短縮・ライン停止を19%削減・設計のフロントローディングにより0.5年で投資回収。
ただし数字はすべて提供する会社の公表値で、第三者が検証したものではありません。導入を検討するときは自社の部品点数と手順書の粒度で試すしかないと思います。
情報の出所にも気をつける点がもう一つ。写真から手順書を作る手法の「活用事例」を検索すると、技術情報サイトの記事に行き当たります。ところが本文のリンクを見ると、提供元が自社で配信した記事であることが分かる場合があります。※URLの末尾に付く計測用パラメータで判別できます。実際に使った人の記録なのか、売っている会社が書いたものなのか。読む前に一度確かめたほうが安全です。
良くも悪くも低減するのは設計者が確かめる回数です
組立手順書を作る過程で、設計者は組立性を確かめていました。部品を外す順に並べれば、工具が入らない場所が出てきます。先に固定すると後から手が届かない場所も見つかります。手順書を書く作業がそのまま設計の点検になっていました。
AIのドラフトを受け取るようになると、点検の機会が一度減る。レビューで同じだけ確かめられるかどうかは、レビューする人が組立を知っているかで変わると思います。
2D CADと3D CADのどちらで設計しているかで、渡せる情報も変わります。使い分けの整理は2D CADと3D CADの使い分け、設計者に求められる判断にまとめてあります。
まとめ
組立手順書の自動生成は、写真起点・2D図面起点・3D CAD起点の三つ
出てくるものは線画・バラシ図面・M-BOMと段階的に深くなる
深さを決めるのはAIの性能ではなく、渡してある情報の構造
Scene 3D Docs AIは2026年6月30日βリリース。デンソー工機部と共同開発
ホーラスAI Zumen AIは2026年9月3日開始。2D図面から3D化・STEPからバラシ図面
写真起点の提供元は「寸法入りCADの代わりではない」と自ら明記
三系統ともAIはドラフトまで。レビューする人が前提
公表されている効果の数値は、いずれも提供する会社が出したもの
手順書を書く作業は設計の点検を兼ねていた。ドラフト方式では点検が一度減る
自社の図面資産が2Dなのか3Dなのかで、選べる入口が決まります。まず手元のデータを確かめるところからだと思います。

