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2D CADはもう古い?は思考停止。データで暴く「3D CAD時代の生存戦略」

ichimatsu

「3D CADを導入したのに、結局2D図面も作っていて二度手間…」

「若手は3D、ベテランは2D。設計思想が食い違って、まともなデザインレビューができない」

もしあなたが機械設計の現場でこんな悩みを抱えているなら、それはあなただけの問題ではありません。多くの企業が同じ壁にぶつかっています。

こんにちは!機械設計一筋20年の一松です。

「これからは3Dの時代だ」と言われて久しいですが、現場の実態はどうでしょうか?2020年度の「ものづくり白書」によれば、驚くべきことに、日本の製造業で3D CADのみで設計している企業はわずか17.0%。一方で、2Dと3Dを併用している企業は44.3%にも上ります。

この数字が突きつけるのは、「3Dへの完全移行は未だ道半ば」という単純な話ではありません。「2Dと3Dのハイブリッドこそが、現在のものづくりにおける最もリアルな姿」だという厳然たる事実です。

今回の記事は、単なるツールのメリット・デメリット比較ではありません。なぜ多くの企業がこの「ハイブリッド状態」から抜け出せないのか、その構造的な理由を解き明かし、3D CAD時代の荒波を乗りこなすための「生存戦略」を、具体的なデータと事例に基づいて深く考察します。

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第1章:なぜ2D CADは「絶対に」なくならないのか? – 製造現場の“共通言語”としての価値

3D CADの優位性が叫ばれる中、なぜ多くの現場で2D CADが生き残り続けているのでしょうか。それは、2D CADが単なる「古いツール」ではなく、特定の領域において无可替代(ほかにかわるものがない)の価値を持つからです。

思考を止めない「構想設計」のスピード感

設計の最も上流である構想段階。ここでは、厳密な拘束や定義よりも、アイデアを自由に素早く形にするスピードが求められます。3D CADが持つパラメトリックな制約は、この段階ではかえって思考の妨げになることがありす。対して2D CADは、“走り描き”が可能なので、設計者の思考を止めません。

加工指示の絶対的正義:寸法と公差を伝える「言語」

どれほど精緻な3Dモデルがあっても、製造現場の作業者が最終的に頼りにするのは、寸法、幾何公差、表面仕上げといった加工指示が明記された2D図面です。3Dモデルは「形状」を伝えるのに最適ですが、2D図面は「どう作るか」という製造情報を正確に伝えるための、揺るぎない“共通言語”なのです。紙に印刷して赤ペンを入れられる手軽さも、現場では依然として強力なコミュニケーションツールです。

データ互換性の現実:DWG/DXFという業界標準

長年にわたり、多くの企業がDWGやDXFといった2Dフォーマットで膨大な設計資産を蓄積してきました。これらのフォーマットは、異なるCADシステムを使う企業間でデータをやり取りするための、事実上の業界標準として今も機能しています。自社が最新の3D CADを導入しても、取引先が2D主体であれば、結局2Dデータでのやり取りは避けられません。

しかし、もちろん2Dには致命的な欠陥も存在します。それは、設計品質が「設計者の頭の中にある3Dモデルの精度」に完全に依存してしまう点です。部品同士の干渉や組付け性の問題は、実際に試作品を作るまで発覚しないことが多く、これが高コストな手戻りの最大の原因となっています。

第2章:3D CADはただの立体作図ツールではない – ビジネスを変革する「デジタルツイン」という思想

3D CAD導入の失敗例でよくあるのが、「3D CADを高性能な2D作図ツール」として使ってしまうことです。3D CADの本質は、単に立体を描くことではありません。ビジネスプロセスそのものを変革する「思想」なのです。

思想の転換:「図面」から「仮想製品(デジタルツイン)」へ

2D CADが生み出すのが「図面」という紙の代替物であるのに対し、3D CADが生み出すのは「仮想製品(デジタルツイン)」です。この3Dモデルは、単なる形状情報だけでなく、質量、体積、材質、重心、コストといったあらゆる属性情報(メタデータ)を内包する、データリッチな存在です。この「仮想製品」こそが、設計から製造、解析に至るまで、すべての工程の「信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth)」となります。

フロントローディングの威力:設計上流での問題解決

「フロントローディング」とは、開発プロセスの後工程で発生しうる問題を、設計の初期段階(上流)で前倒しで洗い出し、解決する手法です。3Dモデルを使えば、仮想空間上で組み立てを行い、部品の干渉チェックや動作シミュレーション(CAE解析)が可能です。これにより、物理的な試作品を作る前に設計上の欠陥を発見し、修正できるのです。手戻りコストが最も低い段階で問題を潰せるため、開発期間の短縮とコスト削減に絶大な効果を発揮します。

【事例】富士フイルムはなぜ「仮想品質点検」で手戻りを激減させられたのか

富士フイルムビジネスイノベーション(旧:富士ゼロックス)は、3D CADの再導入にあたり、単なるツール変更ではなく業務プロセスそのものを変革しました。その一つが「仮想品質点検」です。設計初期段階の3Dモデルを、組立性、安全性、メンテナンス性など、各専門分野の担当者がレビューするのです。これにより、試作品ができてから発覚していたような問題を設計段階で潰し込み、開発の手戻りを大幅に削減することに成功しました。これは、3Dモデルが部門間の壁を越える共通言語として機能した好例です。

開発を加速させるPLMとコンカレント設計という武器

3D CADの真価を最大限に引き出すのが、PLM(Product Lifecycle Management)ソフトウェアの存在です。PLMは、3Dモデルを中心とした製品の全ライフサイクル情報を一元管理するシステムであり、これにより「コンカレントエンジニアリング(同時並行設計)」が可能になります。

従来、設計部門から製造技術部門へ、というように時系列で進んでいた業務を、関係者全員が同じ3Dデータを参照することで、同時並行で進めることができるのです。例えば、設計者が筐体をモデリングしている間に、製造技術部門は金型の成立性を検討し、購買部門は部品のコストを見積もるといった連携が実現します。これにより、開発スピードを劇的に向上させることができます。

ただし、この手法は諸刃の剣でもあります。開発上流で大きな仕様変更が入った場合、並行して進んでいた全部門の作業が手戻りとなり、やり直し工数が爆発的に増加するリスクを孕んでいます。また、3Dモデリング自体が工数の掛かる作業であるため、設計者とは別に専門の「3Dモデラー」を確保する体制が必要になるケースも少なくありません。

そして最大の障壁は、関係者全員が同じ3D CADソフトを扱い、同じルールに則って活動する強固な開発基盤が不可欠である点です。この基盤作りは、その企業の持つ文化や土壌とマッチしていなければ、形骸化してしまいます。3D CADとPLMを用いた開発は、スピードと品質という大きな果実を得る代わりに、多大なリソース(人・モノ・金・時間)を投入しなければならない側面も持っているのです。

第3章:多くの企業が陥る「ハイブリッドの罠」- あなたの会社は大丈夫か?

2Dと3Dの長所を活かすハイブリッド運用は理想的に聞こえますが、一歩間違えると、両方の短所だけが顔を出す「最悪のワークフロー」に陥ります。

最も危険な「先祖返り」:3Dマスターデータの陳腐化

よくある失敗が、急ぎの修正を現場で2D図面に赤入れで済ませ、元となる3Dモデルの修正を後回しにしてしまうことです。この瞬間、3Dモデルは「信頼できる唯一の情報源」としての価値を失い、ただの“絵”に成り下がります。次にその古い3Dデータを流用した設計者が、同じ過ちを繰り返す…まさに負のスパイラルです。

「とりあえず3D化」の末路:増えるだけの工数と“宝の持ち腐れ”

経営層の号令で3D CADを導入したものの、現場が2Dの思考から抜け出せず、「3Dモデルを作ってから、改めて2D図面を一から作る」という完全な二度手間が発生しているケースは少なくありません。また、取引先から送られてきた3Dデータを確認するだけの「高価なビューワー」と化している例も散見されます。これは、ツールへの投資だけで、プロセスと人材への投資を怠った結果です。

データ管理地獄:アセンブリ構造の無理解が招く混乱

2D CADのファイル管理と同じ感覚で3Dデータを扱うと、必ず破綻します。アセンブリモデルは、多数の部品ファイルが相互参照して成り立っています。この構造を理解せずにファイルを移動したり名前を変えたりすると、リンクが切れ、アセンブリが正しく開けなくなる「参照切れ」地獄が待っています。

第4章:未来予測 – AIとクラウドが変える設計現場と、エンジニアに求められる真のスキル

2Dと3Dの議論が落ち着く間もなく、設計の世界には次の大きな波が押し寄せています。それが「AI」と「クラウド」です。

AIは設計者の仕事を奪うのか?

AIが定型的な作図やトレース作業を代替する可能性は高いでしょう。しかし、設計者の仕事がなくなるわけではありません。むしろ、役割がより高度化します。

例えば「ジェネレーティブデザイン」は、強度、重量、コストといった制約条件をAIに入力すると、AIが人間では思いつかないような最適な形状を何百、何千と提案してくれる技術です。パナソニックは、この技術を活用してシェーバーのモーター出力を15%向上させることに成功しています。

これからの設計者に求められるのは、AIに対して的確な課題や制約条件を設定し、AIが生成した無数の選択肢の中から最適な解を評価・選択する能力です。つまり、手を動かす「作図者」から、設計プロセス全体を指揮する「システムオーケストレーター」への進化が求められます。

クラウド化の波がもたらす変化

世界の3D CAD市場は年率6.4%で成長が見込まれ、その中でもクラウドセグメントが急成長しています。高価な買い切りライセンスから月額のサブスクリプションモデルへ移行することで、中小企業でもハイエンドなCADを導入するハードルは劇的に下がります。場所を選ばないデータ共有は、リモートワークや部門間連携を加速させるでしょう。

まとめ:明日からあなたは何をすべきか

「2Dか3Dか」という二元論は、もはや思考停止です。
これからの機械設計者に求められるのは、両者の思想的背景を深く理解し、プロジェクトのフェーズや目的に応じて最適なツールとワークフローを構築する「プロセス設計能力」です。

  • 構想段階では2Dの自由度を活かし、
  • 詳細設計では3Dの仮想検証能力を最大限に引き出し、
  • 製造段階では2Dの伝達力を活用する。

このハイブリッドな思考こそが、あなたのエンジニアとしての市場価値を決定づけます。

ツールに使われるのではなく、ツールを使いこなし、設計プロセス全体を最適化する。その視点を持った時、あなたは単なる「CADオペレーター」から、日本のものづくりをリードする真の「設計者」へと飛躍できるはずです。

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ABOUT ME
一松
一松
機械設計 一筋20年
某理工学部機械工学科 大学/大学院卒業後メーカーに設計者として勤務
少しでも設計者のみなさんにお役に立てる情報を発信していければと思っています。
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