Uncategorized

なぜ技術者との会話は噛み合わないのか?

ichimatsu

「技術者と会話が成立しない…」
「お客様との打ち合わせに技術者を連れていくと、かえってトラブルになる…」

多くの営業担当者が、一度はこんな悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。良かれと思って同席してもらったのに、気づけばお客様が不機嫌に。なぜ、こんなことが起きてしまうのでしょう。

この記事は、そんな悩める営業担当者の方々、そして当事者である技術者の方々に向けて書いています。

実は、そのすれ違いの原因は、技術者が持つ特有の思考プロセスにあります。彼らが「プロフェッショナル」であるがゆえに、ビジネスの現場で意図せず障壁を生んでしまうことがあるのです。

この記事を読めば、彼らの思考の背景を理解し、明日からのコミュニケーションを劇的に改善するヒントが見つかるはずです。


スポンサーリンク

なぜ技術者は平気でお客様を怒らせるのか?

技術者、特に設計者は、仕事柄、目の前で起きている物理現象を冷静に分析し、工学的に解決策を導き出す訓練を徹底的に積んでいます。

そこでは「感情」「先入観」「既存概念」といった要素は、正確な分析の邪魔になるノイズです。常に客観的な事実とデータを基に、最適解を導き出す。それが彼らの正義であり、プロフェッショナルとしての仕事の流儀です。

しかし、この姿勢がお客様との対話の場では、裏目に出ることがあります。

例えば、お客様が「この部分のデザイン、感覚的にもう少し丸みを帯びた感じにしてほしいんだ」と要望したとします。
この時、技術者の頭の中では、「その形状変更に伴う応力集中」「製造工程での金型変更コスト」「耐久性への影響」といった課題が瞬時に計算されます。そして、工学的な正しさに従い、こう答えてしまうのです。

「その形状は物理的に難しいです。強度が著しく低下します。」

この回答に悪気は一切ありません。事実を伝えているだけです。しかし、お客様からすれば「想いを真っ向から否定された」「できない理由ばかり並べている」と感じ、気分を害してしまうのも無理はありません。

【営業担当者の方へ】あなたの役割は「翻訳者」です

彼らがお客様の想いを軽視しているわけではありません。ただ、感情や背景を汲み取ることが、設計という仕事のプロセスに含まれていないだけなのです。むしろ、それを排除することで高い品質を担保しているプロフェッショナルと言えます。

そんな時こそ、営業担当者の出番です。あなたのプロとしての仕事は、お客様の「気持ち」や「困りごと」を分析し、技術者が理解できる「要件」に翻訳して伝えることです。

先ほどの例であれば、一度こう引き取ってみましょう。
「なるほど、このデザインの持つ柔らかな雰囲気を大切にしたい、という想いがあるのですね。〇〇さん(技術者)、この雰囲気を維持しつつ、強度も担保できるような代替案は、技術的に何か考えられますか?」

このように、顧客の感情を「達成したい要件」として言語化し、解決策を探る質問に変換するだけで、技術者はその能力を最大限に発揮してくれるはずです。


なぜ技術者は「無理」と即答してくれないのか?

もう一つ、営業担当者を悩ませるのが、技術者の「曖昧な返事」です。

明らかに無理難題と思われる要求に対し、すぐに判断して次へ進みたい。そんな営業の気持ちとは裏腹に、技術者はその場で明確に「YES/NO」を答えないことがあります。なぜでしょうか。

これもまた、彼らのプロフェッショナルな思考に起因します。設計者や技術者は、常に新しいものを生み出すことを使命としています。既存の常識にとらわれず、新たな可能性の芽を大事に育てるのです。

つまり、いくら一見して無理だと思ったとしても、設計者の中で「100%不可能である」という工学的な根拠がない限り、「無理」「不可能」という言葉は絶対に使えません。その言葉を発した瞬間に、あらゆる可能性の芽を自ら摘み取ってしまうことを知っているからです。

その代わり、彼らが使いがちなのが「非常に難しい」という言葉です。

しかし、この言葉は非常に厄介です。受け手である営業やお客様は、「可能性はゼロではないんだな」「検討に値するんだ」とポジティブに解釈してしまうことが多々あります。
多くの場合、技術者の真意は「不可能だと証明できるだけの証拠がないから、断定は避けているだけ」というニュアンスなのです。この認識のズレが、後々の大きなトラブルに繋がりかねません。

【営業担当者の方へ】「魔法の質問」で真意を引き出す

「非常に難しい」という言葉が出てきたら、チャンスだと思ってください。そこからが対話の始まりです。YES/NOを迫るのではなく、以下の「魔法の質問」を投げかけてみましょう。

  • 「その『難しさ』を乗り越えるには、具体的にどのような条件(時間、コスト、技術など)がクリアになれば、可能性は1%でも上がりますか?」
  • 「承知しました。では、今回はその線での検討は一旦保留として、別の角度からお客様の課題を解決するアプローチを探す方が、現実的と言えそうでしょうか?」

このように、実現可能性の「度合い」や「前に進むための条件」を具体的に引き出すことで、技術者の真意と、プロジェクトが置かれている現実的な状況が見えてくるはずです。


【技術者の方へ】あなたの「正しさ」と相手の「価値観」は違う

ここまで読んで、少し耳が痛いと感じた技術者の方もいるかもしれません。しかし、これは決してあなた方を非難しているわけではありません。

ぜひ知っていただきたいのは、営業担当者やお客様は、あなたとは全く異なる「ものさし」で物事の価値を測っているということです。

彼らにとって重要なのは、技術的な完璧さだけではありません。「納期」という時間であったり、「予算」というコストであったり、あるいは「お客様との良好な関係性」であったりします。彼らが時に性急に結論を求めているように見えるのは、彼らの仕事における優先順位が異なるからです。

ぜひ、彼らが「何を大切にして会話を進めようとしているのか」「その言葉の裏にある本当のゴールは何か」を注意深く探ってみてください。あなたの持つ素晴らしい技術や知識を、ビジネスの世界で最大限に輝かせるための、新しい発見がきっとあるはずです。


最後に:異文化理解こそが最強のチームを作る

営業と技術者は、決して敵対する関係ではありません。それぞれが異なる分野のプロフェッショナルであり、お客様に価値を提供するという同じゴールを目指すパートナーです。

お互いの思考の特性を「欠点」として見るのではなく、プロフェッショナルとしての「文化の違い」と捉えてみましょう。その違いを理解し、尊重し、互いの言語を翻訳し合う努力をすることで、チームはより強固になり、お客様へこれまで以上の価値を提供できるはずです。

この記事が、皆さんの職場でより良いコミュニケーションが生まれる、一つのきっかけになれば幸いです。

スポンサーリンク
ABOUT ME
一松
一松
機械設計 一筋20年
某理工学部機械工学科 大学/大学院卒業後メーカーに設計者として勤務
少しでも設計者のみなさんにお役に立てる情報を発信していければと思っています。
記事URLをコピーしました