設計者のキャリアに訪れる二つの分岐

ichimatsu

※本記事にはアフィリエイト広告を含みます。

私がキャリアについて考えるようになったきっかけは、二人の先輩の姿でした。

一人は、いまマネジメントをしています。技術をよく理解し、現場の泥臭いところまで知っている、頼れるマネージャーです。周りからの信頼も厚く、順調に昇格してきました。給料も高いはずです。それでも、たまにこぼします。「新しいCADにはもうついていけない」「設計の一番楽しいところを、自分でやれない」「自分の個性って、何なんだろうな」。設計の最前線で活躍する後輩たちを、どこかまぶしそうに見ているのが、印象に残っています。

もう一人は、管理職にならない道を選びました。昇格の年齢をとうに過ぎても現役で、私より年上、定年後の再雇用となったいまも最前線でバリバリ設計しています。その分野の第一人者として、社内だけでなく取引先からも信頼されている人です。相談に行くと、口ではブツブツ文句を言いながら、顔は嬉しそうに付き合ってくれる。新しい開発の話が出れば、「後進を育ててください」という私のお願いはどこへやら、自分で図面を描き始めてしまいます。とにかく、楽しそうなのです。

マネジメントに進むか、技術を深めるか。 機械設計者なら、30代後半までにほぼ全員がこの分岐に立ちます。この記事はどちらが正解かという話ではありません。そんな正解は存在しません。分岐の手前で何を知っておくべきか、を書きたいと思います。

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この分岐の厄介さは「選べないこと」にある

まず身も蓋もない事実から。多くの会社で、この分岐は本人が選ぶものではなく、会社の都合で割り振られます

課長ポストが空けば声がかかり、断れば「次」は当分来ません。逆に専門職を望んでも、技術専門職の制度(フェロー、主管技師など)が機能している会社は限られます。制度はあっても、実態は「管理職になれなかった人の処遇枠」になっている会社も、正直少なくありません。

つまり問うべきは「どちらを選ぶか」の前に、「いま居る会社で、それぞれの道はどんな景色か」です。

  • 自社の技術専門職は、処遇と裁量が管理職と同等か。それとも名ばかりか
  • 課長になった先輩は、技術判断にまだ関与しているか。完全に管理業務に吸収されているか
  • 50代の設計者が、社内でどう扱われているか

最後の点は特に見てほしいところです。50代の先輩の現在は、ほぼそのまま自分の未来です。設計の第一線で尊重されている50代が周りにいるなら、その会社で技術を深める道には実体があります。いないなら、その道は社内には存在しない可能性が高いと考えるべきです。

図1:マネジメント職と専門職、それぞれに固有の論点がある

マネジメント職の本当の論点は「不可逆性」

誤解のないように書いておくと、私はマネジメント職を「設計者の墓場」だとは思っていません。

構造設計とチーム運営は、実は同じ頭の使い方をします。要求仕様(事業目標)があり、制約条件(人・予算・納期)があり、リソースをどう配分すれば応力集中(特定メンバーへの負荷集中)を起こさず全体剛性が出るか。設計が好きな人ほど、マネジメントを設計問題として面白がれる素質があります。

問題は適性ではなく、不可逆性のほうです。マネジメントに進んで5年も経つと、手の感覚は確実に鈍ります。CADのバージョンは変わり、解析ツールは世代交代し、後輩のほうが早く正確に手を動かすようになります。そこから設計者に戻る道は、社内にはまず用意されていません。

だから分岐で本当に考えるべきは「どちらが好きか」ではなく、「戻れなくなって困るのはどちらか」だと私は考えています。

分岐の手前でやっておくべき、たった一つの準備

では何を準備しておくか。私の答えは一つで、分岐に立つ前に、自分の「社外価値」を一度測っておくことです。

図2:社外価値を測ってあると、選択肢がある状態で分岐に立てる

理由を説明します。この分岐の選択を歪める最大の要因は、「この会社にしか居場所がない」という前提です。その前提に立つと、打診された話は断れませんし、名ばかりの専門職制度にも従うしかありません。選択肢が一つしかない状態では、そもそも選択ができないのです。

逆に、「外に出てもやっていける」という裏付けが一度でも取れていると、同じ分岐がまったく違って見えます。マネジメント打診を受けるにしても「ダメなら設計者として転職すればいい」という保険付きで受けられますし、専門職の道を選ぶなら「社内に道がなければ、道がある会社に移る」という選択肢が現実味を持ちます。

実際、技術系の転職市場では、40代でも「特定領域の問題を解ける設計者」への需要は安定して存在します。むしろ若手不足で、即戦力のミドル層は以前より評価されやすくなっているのが実情です。社外価値が具体的にどう値付けされるかは、市場価値を決める三つの層で整理しました。

社外価値の測定には、製造業に特化したエージェントを使うのが手っ取り早い方法です。技術者専門のところなら、コンサルタント側に製造業経験者が多く、「主任技師の処遇」「専門職制度の実態」といったこちらの問題意識がそのまま通じます。面談で「あなたの経験なら、こういう求人でこのくらいの年収」という相場が出るので、分岐の判断材料が一つ増えます。転職する・しないは、測ってから決めればよいのです。

「描き続けた40代」にも準備は要る

最後に、専門職側を選ぶ(選びたい)人へ。技術を深める道は、実は社内政治より過酷な競争だということも書いておかないとフェアではありません。

管理職は社内相対評価ですが、専門性は社外も含めた絶対評価に晒されます。「社内で一番CAEに詳しい」は、転職市場では何の保証にもなりません。深めるなら、社外でも通用する形で深める必要があります。

具体的には、自分の専門を「製品名」ではなく「解ける問題」で言えるようにしておくことです。「◯◯(製品)の設計を20年」ではなく、「回転体の振動・疲労問題なら、現象の切り分けから対策まで一人で回せる」のように。前者は社内でしか通じない実績で、後者は持ち運べる専門性です。たとえば共振設計の三つの視点S-N曲線で疲労寿命を読むのような、製品名を外しても語れる引き出しのことです。冒頭の、再雇用でいまも最前線に立つ先輩が取引先から信頼され続けているのは、これを持っていたからだと思っています。

まとめ

  • マネジメントか専門職かの分岐は、多くの場合「選べない」。だから分岐そのものより、手前の準備が重要になる
  • 社内の50代設計者の現在は、自分の未来の予告編。よく観察すること
  • 分岐の前に社外価値を一度測っておくと、どちらの道も「選択肢がある状態」で判断できる
  • 専門性を深めるなら、「製品名」ではなく「解ける問題」で語れる形に

キャリアの分岐は、来てから考えると会社の都合に流されます。来る前に測っておく。やることは、それだけです。

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ABOUT ME
一松(いちまつ)
一松(いちまつ)
大学院(機械工学専攻)修了後、機械設計エンジニアとして設計一筋20年
大学院(機械工学専攻)修了後、製造業で機械設計に従事。20年以上、動力機器の設計開発に携わっています。現場の知見から「考えるための情報」を発信しています。
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