機械設計者の自己評価は、なぜこんなにも低いのか
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「エンジニア」と聞いて、多くの人がまずITエンジニアを思い浮かべる時代になりました。
彼らの仕事には、ある程度の「型」があります。プログラミング言語もフレームワークも、会社をまたいで共通する部分が大きい。だから技能の汎用性が高く、転職によるステップアップもしやすい。実際、数年単位で会社を移りながらキャリアを積み上げていくのが、あの業界ではごく普通の働き方です。
では、機械設計者はどうでしょうか。
私の見るかぎり、多くの設計者は一つの会社で長く過ごします。そして、それには理由があります。
機械設計者の技能は、会社の文化に根を張っている
機械設計の仕事は、会社ごとにあまりにも違います。
使うCADシステムが違う。DR(デザインレビュー)の作法が違う。図面の描き方のクセが違う。そして何より、その会社が長年かけて築いてきた「ものづくりとの関係」、どの工程を内製し、どの加工先と組み、どんな品質思想で量産を回すか、が設計のやり方そのものに染み込んでいます。
機械設計者の技能は、この会社文化と分かちがたく結びついています。だからこそ、外に出てステップアップしようと考える人が、ITエンジニアに比べて圧倒的に少ない。それどころか、「自分はこの会社のなかでしか輝けない」、そう思い込んでいる設計者が、とても多いように感じます。
私は、これを大きな誤解だと考えています。
設計者は、紛れもないハイパフォーマンス人材です
少し、設計という仕事に必要な能力を並べてみます。
構造や現象を筋道立てて読み解く論理的思考力。チームで一つのものを作り上げる協調性。立場の違う相手と話を通すコミュニケーション能力。前例のない課題に答えを出す発想力。そして時には、ぐっとこらえて地道に泥臭く進める忍耐力。それらすべてに裏打ちされて、ようやく一つの仕事を最後まで回しきる力が生まれます。

これだけ多彩な能力を同時に要求される職種は、そう多くありません。機械設計者は、紛れもないハイパフォーマンス人材です。
それなのに、はっきり言ってしまえば、日本の機械設計者の自己評価は、低すぎます。 私はそう思っています。
そして問題は、その低い自己評価が「同じ会社に居続ける」という構造から生まれている、という点にあります。一つの物差しの中だけで長く過ごすうちに、自分の絶対的な価値が分からなくなっていく。これは本当に、もったいないことです。
なぜ、自分の価値が見えなくなるのか
設計の仕事は、とてもハードです。
一つの製品を成立させるために、膨大なエネルギーを使います。だから自分の担当に没頭するほど、周りが見えなくなる。気づけば、自分の仕事の価値も、自分自身の価値も、測る基準を失っていきます。
自分のコミュニティに引っ込んでいると、扱う仕事の枠もだんだん狭くなります。すると、ある一定のところから先、成長が伸びにくくなる。
もちろん、恵まれた設計者もいます。会社の上から新しい機会を与えられ、幸運にも新しい価値観に触れ、成長し続けられる人。けれど、それは一部です。多くの設計者は、目の前の仕事に忙殺されたまま、自分の価値観をアップデートする機会のないまま、静かに埋もれていきます。
繰り返しますが、これは本当にもったいない。
自分を、他人の物差しで測ってみる
そこで、ひとつ提案があります。
機械設計という分野のなかで、自分はいまどのレベルにいるのか。一度、自分の物差しではなく、他人から見ても分かる物差しで測ってみてほしいのです。

自分の価値は高いのか。それとも、まだまだなのか。第三者の目線で測ることで、初めて自分の立ち位置が見えてきます。
立ち位置が分かれば、その先の指針も見えます。思っていたより評価されているなら、もっと自信を持って仕事に向かえばいい。まだ伸びる余地が大きいなら、アンテナを広げて新しい価値観を取りに行けばいい。どちらにしても、現在地が分かって初めて、進む方向が決められるのです。
では、どうやって他人の物差しで測るのか。
私がおすすめするのは、転職活動です。
「転職活動」と「転職」は違います
ここで誤解しないでほしいのですが、本当に転職をする必要はありません。
おすすめしているのは、あくまで「転職活動」です。この二つは、はっきり別物です。
転職活動をしようとすると、まず自分の技量を棚卸ししなければなりません。これまでどんな業務をやってきたか。自分にはどんなスキルがあるのか。それを職務経歴書にまとめ、人にプレゼンテーションできる形に整える。この作業そのものが、自分を第三者的に見直す貴重な機会になります。この棚卸しを具体的にどう進めるかは、市場価値を決める三つの層で詳しくまとめました。
そして、それを実際に第三者に見てもらう。つまり、採点してもらうのです。
自分の価値を知るのは、正直、怖いことでもあります。低い点をつけられたらどうしよう、と。けれど、自分の仕事も、生活も、価値観も、すべてをこの先アップデートしていくためには、まず「今の自分」を正確に知ることが欠かせません。それは避けて通れない一歩だと思います。
そのために、転職活動は驚くほど有用です。
例えるなら、定期健康診断のようなものです。数値が出て初めて、打つべき手が見えてくる。結果が良ければ安心して今の生活を続ければいいし、どこかに数値の異常があれば、早めに手を打てる。転職活動も、まったく同じ構造をしています。
私自身が、転職活動で変わりました
抽象的な話が続いたので、私自身の経験を書きます。
以前、実際に転職活動をしたことがあります。まず職務経歴書を書くために、自分のキャリアの棚卸しから始めました。これまでの業務、培ったスキルや技術、そして「自分だから出せる付加価値」は何か。それを一つずつ書き出していきました。
書き出していくうちに、奇妙な感覚に襲われました。「あれ、自分ってこんなこともやっていたんだ」「そういえば、こんな経験もしている」「これもできるじゃないか」。そして極めつけは、ある仕事を平たく言葉にしてみると、それは設計という枠には収まらず、むしろプロジェクトリーダーとしての側面のほうが強かった、と気づいたことです。
自分で書きながら納得性を与えていく。その過程で、それまで会社の中だけで相対比較し、小さな世界で自分を評価して縮こまっていた自分の強みが、知らぬ間に明確になり、整理されていきました。
整理されるというのは、引き出しの取り出しやすい場所に置かれる、ということです。おかげで、実際の業務における応用力が格段に上がりました。
さらに、履歴を公開して応募できる状態にしてみると、幸いにも多方面からお声をかけていただけました。「まさか自分が、こんなに求められる人材だったとは」。手前味噌ですが、自己肯定感がうなぎ上りになりました。これが仕事上の自信につながり、判断に迷いがなくなる。会議で胸を張って意見を主張できる。そういうポジティブな変化が、確かに起きたのです。
結局、私はそのとき転職しませんでした。それでも、転職活動で得られたものは、社内ではなかなか得られない貴重な経験となり、自分がステップアップする確かな糧になりました。
採点者は、技術の分かる相手を選んでください
ひとつだけ、実務的な注意があります。
採点してもらう相手、つまり転職エージェントは、技術の分かる相手を選んでください。
総合型の大手エージェントだと、機械設計者の経歴を「CAD経験◯年」程度の解像度でしか読めないことがあります。それでは、せっかくの棚卸しが正しく採点されません。前述したような、論理的思考力や課題解決の発想力といった本当の価値が、評価シートに乗らないまま終わってしまいます。
製造業のエンジニアを専門に扱うエージェントなら、その心配は小さくなります。専門用語で語っても通じますし、基礎知識のすり合わせから入る必要がありません。面談で「あなたの経験なら、こういう求人でこのくらいの年収」という相場を出してもらえるので、自分の現在地を測る健康診断として使えます。面談だけなら無料で、登録したからといって転職を迫られるわけでもありません。
地域特化型のエージェントを併用すると、地場メーカーの相場観まで見えてきます。とくに東海地方(愛知・岐阜・三重)のように製造業が集積した地域では、地場の中堅メーカーに強い地域特化型が、全国区の大手とは別の求人や相場観を持っていることがあります。
まとめ:今の自分を知ることから、すべてが始まる
最後に、この記事で伝えたかったことを整理します。
- 機械設計者の技能は会社文化に深く根を張るため、「自分はこの会社でしか通用しない」と思い込みやすい
- しかし設計者は、多彩な能力を要求される紛れもないハイパフォーマンス人材。日本の設計者は自己評価が低すぎる
- 同じ会社に長くいると、自分の絶対的価値が見えなくなる。これは構造的な問題であって、能力の問題ではない
- 自分を「他人の物差し」で測ると、立ち位置と進むべき方向が見えてくる
- その手段として、転職活動(転職そのものではない)は定期健康診断のように有用
- 採点者は、技術の分かる専門エージェントを選ぶこと
今のまま会社に居続けるのも、よし。機会があれば外に飛び出すのも、よし。どちらを選ぶにせよ、まず必要なのは「今の自分を知ること」です。
自分自身をアップデートしていくための第一歩として、私は転職活動をおすすめします。健康診断を受ける程度の気軽さで、一度、自分を測ってみてください。


